2026年6月4日(木)

世界の記述

2026年6月4日

 これらに鑑みれば、米国・イラン間の主要な争点は、以下であると小括できよう。

●全ての戦線での戦闘終結
●経済制裁の解除
●イラン在外凍結資産の解除
●損害の賠償
●ホルムズ海峡の管理
●核問題

 弾道ミサイル・ドローン開発問題に関して、イラン側は、国防能力に関わる内政問題であり、交渉の余地は一切ないと、イラン政府要人は筆者に語っている。15年7月に包括的共同作業計画(JCPOA)が締結された際にも、弾道ミサイル・ドローン開発および「抵抗の枢軸」(代理勢力)支援の問題は、交渉の対象から外されてきた経緯がある。これら2点は、イラン側の要求を受けて協議の争点に含まれていないものと考えられる。

覚書締結の「先」に立ちはだかる壁

 覚書ドラフトから推測される内容を概観した上で、覚書締結、またはその「先」に立ちはだかる壁について検討しよう。

(1) イスラエルが停戦を守れるか

 目下最大の注目点は、イスラエルがレバノン・パレスチナに対する戦闘行為を停止できるかである。開戦の経緯を振り返ってみても、今回の戦争の背後にはイスラエルのネタニヤフ政権の意向が強く働いている。

 トランプ大統領は、米国内のガソリン価格の高騰を抑えるためにも、本年11月に予定される中間選挙で支持率低下を招かないためにも、また『国家安全保障戦略』で重視すると掲げた西半球戦略に注力するためにも、対イラン軍事作戦に一区切りをつけたい意向があるとみられる。一方で、第二期トランプ政権期間がイラン現体制を打倒する千載一遇のチャンスだと捉えているだろうネタニヤフ政権は、レバノンへの攻撃の手を緩めていない。イスラエルの動向が今後の協議の進展を左右するだろう。

(2) ホルムズ海峡管理でイランが譲歩できるか

 次に、ホルムズ海峡封鎖という「パンドラの箱」が開いた現在、イランはこの強力な交渉カードを手中に収める状況を容易に手放さないだろうと考えられる。イラン・オマーンでの共同管理、航行する船舶からの通航料の徴収など、様々な議論がなされているようである。

 米国としては海峡封鎖を解除する代わりに、イラン側も海峡を戦争前の状態に戻して欲しいと考えているかもしれない。しかし、イランにとってホルムズ海峡封鎖カードは手元に残された重要な交渉カードであり、譲歩することができない。

(3) 核交渉で双方が譲歩できるか

 第三に、仮に覚書が締結されたとしても、今後来る核問題に関する交渉で、米国とイランが各々譲歩できるかは全くの未知数である。イランのモジタバ・ハメネイ第三代最高指導者は、高濃縮ウランの国外搬送・移転に反対しているとみられる。一方の米国にとってイランの親米体制への転換が事実上困難な状況下、幕引きを図るとすれば「イランから核開発能力を奪った」との状況を米国民向けに見せたいだろう。

 15年7月に締結されたJCPOAは、国際社会がイランに対する経済制裁を解除する見返りに、イランはウラン濃縮度を3.67%以上に引き上げないとすることを謳った合意文書だった。これによって、イランのブレイクアウト・タイム(核兵器1個分の核燃料の製造にかかる期間)を1年以上に引き延ばすことが可能となった。トランプ大統領は同様の合意を結ばざるを得ない状況に追い込まれているが、その場合に「オバマ元大統領が結んだ合意以下の合意しか作れなかった」との批判が巻き起こるかもしれない。


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