日本の矛盾を突くEUと中国
実際のところ、EUの反論は痛い点を突いている。日本は97年からサバに対して漁獲枠を設定して管理してきたが、その枠は実際の漁獲量よりも遥かに上回っている場合がほとんどで、漁獲量が枠に近づきそうになると漁期の途中で上方修正するなど、資源保護の観点からは有名無実化していた(市野川・岡村(2016)、62頁)。
03年から実施された巻き網漁業者による臨時休漁などの措置は資源回復に一定の効果を上げたとされている(Ichinokawa et al. (2015); 市野川・岡村(2016))が、何といっても04年と13年に孵化した仔魚の生き残りが良かったことが貢献をしたというのは、資源評価を行う水研機構の報告書でも明記されている(水研機構(2026)、1頁及び9頁)。
公海にだけ一方的に漁獲削減を押し付けていてアンフェアだという点も、理屈としてはそれなりに通っている。日本は24年までは楽観的なマサバの資源評価に基づいて漁獲枠を設定しており、実際の漁獲量は枠を大きく下回っている。25年に改訂された漁獲枠でも実際の漁獲量の2倍という緩やかなものである。
日本側の削減提案(21~23年漁獲量の75%減)をそのまま適用すると、日本のEEZ内のマサバ漁獲枠は約3万トンとなる。しかるに25年の日本が国内的に設定しているサバ類漁獲枠のマサバ分は8.7万トンと、その3倍にも達する。これでは、日本側の公海漁獲枠削減案は、EEZの削減措置と比べてアンフェアではないかと言われれば、反駁するのは難しいであろう。
最終的に採択された管理措置は、マサバとゴマサバを合わせた漁獲枠を26年は5万1000トン、27年は4万5000トンにするとの内容となった。日本は国内的な漁獲枠の設定で、「マサバとゴマサバは一緒に漁獲され、分別が困難」という理由から、漁獲枠はマサバとゴマサバを合わせたものとしている。
漁獲枠も、今回は「上位3割」ではなく「上位半分」に目標を下げ、半分強ではなく4割残す程度の漁獲圧(専門用語では「F40%SPR」という)としたものとなっている。
「4割残す」というのは、現在日本が国内的に採用している漁獲枠の算定基準と基本的に同じである。日本が国内的に設定している漁獲枠よりも遥かに厳しい内容を公海で設定するという当初の目論見は外れ、日本が実施しているものと漁獲抑制の程度としては概ねパラレルなものとなったと言える。
そもそも緩い国内のサバ規制
この資源に関して「4割残す」という指標は、実際のところは極めて手緩い措置しか導かない。国内でサバ類(マサバ・ゴマサバ)の管理方法と漁獲枠の改訂が議論されていた25年、資源評価を行った水研機構の科学者たちは、マサバを「半分残す」程度の漁獲圧(「F50%SPR」という)とし、ゴマサバと合わせた漁獲量は23年の13万トンから6.8万トンへと半減する案を推奨していた(水産庁(2025)「漁獲シナリオ等の検討について」13頁)。
しかし、より大きな漁獲枠を望む一部の漁業者の意向におもねる形で「4割残す」指標を用い、さらにゴマサバも含めて前提を楽観的なものにすることにより、科学者からの提案からは2倍にもなる枠(13.9万トン)を採用、直近の漁獲量からみて漁獲の削減を伴わない、つまり何の痛みも伴わない案を採用した経緯がある。これには「あまりに恣意的」との懸念が政府関係者から上がったほどである(詳細は拙稿「日本のサバ漁は世界から見るとまるで「ジャイアン」!? EEZも公海も「自分のもの」に、いまだ引きずられる一部漁業団体の声」を参照いただきたい)。



