なぜAI半導体は密輸されやすいのか
AI半導体の大規模な密輸、このこと自体は広く知られていた。2年以上前となる24年4月に米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は報告書『半導体密輸パイプラインの可視化と輸出管理コンプライアンスの向上』を公表している。
AI半導体は“密輸向きの商品”だと、同報告書は指摘する。エヌビディアのAI半導体「H100」は約4万ドルと高額で、かつサイズは靴箱に収まる。ドラッグと同じで、隠しやすく、かつ大きな利益が見込めるおいしい商材と言える。同じ半導体関連でも、中国が必要としている製造装置は大きすぎて密輸には不向きだ。
密輸には4段階の工程がある。まず買い付け。エヌビディアの正規販売代理店、サーバーなどの製品に組み込んで販売する機器メーカー、再販事業者からAI半導体を購入する。本人確認があるが、ダミーのペーパーカンパニーでクリアする。
ペーパーカンパニーは次から次に新設され、怪しい会社が潰されてもすぐに次の会社が登場するモグラ叩き状態だ。特に狙われるのが高度な審査能力を持たない、小規模な機器メーカーや再販事業者である。
第二の工程が通関。買い付けた国からAI半導体を持ち出す必要がある。米袋や電子ゴミの中に入れる、サーバーなどの電子機器に組み込むといった隠蔽工作が行われるほか、賄賂が横行する途上国では通関検査官を買収する手法も使われている。
第三の工程が港からの持ち出し。大手物流企業は独自の検査手続きを行っており、密輸の疑いがある商品の輸送を拒否することがある。そこで検査能力が低く、かつ買収しやすい小規模事業者が選ばれる。
また、麻薬密輸の手法を応用した「Rip-on, rip-off(抜き取り・紛れ込ませ)」というテクニックもある。港湾関係者を買収し、検査が終わったコンテナの中にAI半導体を紛れ込ませる。コンテナには未開封を示す封印シールがつけられているが、わずか3分間という短時間でAI半導体を運び入れ、偽造シールにつけかえる。
最後の工程が積み替えだ。持ち出したAI半導体を直接、中国に運び込むルートは追跡されやすく、発覚のリスクが高い。そこで第三国を経由して中国に輸送する。貨物を紛失したとの名目で、実際には海上で別の船に積み替えるといった映画的な手法もあるが、検査のゆるい国を経由することが多い。
同報告書は、AI半導体がひとたび販売国から第三国へと移動すれば、その後の追跡は絡まった毛糸を解くような難易度だと指摘し、輸出管理は本質的に穴を塞ぎきれない手段だと論じている。
