厳罰化の先にあるもの
ここまでの整理は、ともすれば「逮捕・辞任という厳しい対応を徹底すべきだ」という結論に直結しそうに見える。
一方で人情としては、「大事件になって、子どもも傷ついているのではないか」「家族の幸せを考えた時に、このような社会は本当に正しいのか」という思いを持つ人もいるのではないだろうか。そうした問題意識を持った人たちとともに、厳罰化の先にある解決策を一緒に考えていきたい。
参考になるのは、先進的な取組を進めている他国の事例である。
欧米における虐待・DV対策は、まず厳罰化から始まった。逮捕・起訴・保護命令といった司法的対応を強化することで、被害者の安全を確保する方向に制度が整備されてきた。これは正しい方向である。被害者の保護が最優先であることに、いささかの疑いもない。
ただし、話はそれで終わらない。各国のトップランナーの取り組みで見えてきたのは、「厳罰化だけでは、暴力の再発を防げない」という現実である。
加害者を一度処罰しても、関係性が継続する限り、暴力のパターンそのものが変わらなければ再発のリスクは残る。家庭という関係性は、職場の人間関係と異なり、簡単に「切り離す」ことができない場合が多い。
この認識から発展したのが、「加害者プログラム」である。これは加害者本人に、自らの暴力的・支配的な行動パターンを自覚させ、行動を変容させることを目的とした教育的・心理的介入である。
役員・社員が家庭内暴力で問題を起こした場合、「辞任・解雇すれば終わり」という対応は、当該人物の行動パターンそのものに変化をもたらすわけではない。本人が今後も家庭生活を続け、あるいは別の関係性の中で同様の問題を繰り返すリスクに、企業として向き合う視点があってよい。
経営者・人事担当者が今、備えておくべきこと
最後に、実務的な視点を三点示したい。
第一に、家庭内の事案であっても、逮捕という事実が生じた時点で、企業の対外的対応が即座に問われるという前提を持つことである。対応指針を事前に検討していない企業ほど、初動の遅れが批判の対象になりやすい。
第二に、被害者保護の最優先を、対応方針の核に置くこと。今回の事案でも、世論の一部には「被害を訴えた側」への疑問や非難が向けられる場面があった。しかしその多くは匿名である。社会的信用が求められる警察・心理学、危機管理領域の専門家の多くは球団の迅速な対応を肯定的に評価した。この点を過小評価すべきではない。
暴力を振るった側に責任があり、被害を訴えた側に非はない。この基本認識を、企業としての対応方針にも明確に反映させる必要がある。
第三に、処分(辞任・解雇)だけで問題が解決するわけではないという認識を持つことである。単に処分して終わりにするのではなく、会社としても問題意識を持って当事者の改善に並走していく。加害者プログラムのような行動変容のアプローチが社会に存在することを知っておくことは、人事担当者にとって今後ますます重要な知見となるだろう。
家庭は職場の外にある。しかし、その境界線は、もはや経営者・人事担当者にとって安全な防波堤ではない。
今回の事案が示したのは、家庭内の出来事が一夜にして企業の危機管理事案に変わるという現実そのものである。備えは、起きる前にしか作れない。
