児童虐待の対象範囲は広い
「逮捕はやりすぎだ」との声も聞く。この点も、「家族に対して暴力をふるえば、安全確保のため逮捕される」と理解しておく必要がある。ここでは、児童虐待の防止に関する法律、民法の懲戒権、暴行罪の成立要件の3点に絞って解説する。
児童相談所における児童虐待対応件数は高止まりしており、24年(令和6年)度は 22万3691件となっている。およそ2分に1回、毎日600件以上の虐待相談が処理されている計算になる(こども家庭庁「令和6年度児童相談所における児童虐待相談対応件数」図表1)。
児童虐待の対象範囲は広い。児童虐待の防止等に関する法律第2条は、「児童虐待」を身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4類型に分けて定義している。同条第4号は、児童に対する著しい暴言や拒絶的な対応、児童の目前で行われる暴力も「心理的虐待」として明記している。
実際にこども家庭庁の統計でも、24年(令和6年)度に児童相談所が対応した虐待相談のうち、心理的虐待が全体の約6割を占めて最多となっている(こども家庭庁「令和6年度児童相談所における児童虐待相談対応件数」(図表2)。一般に想像されているよりも、対象となる行為の範囲はかなり広いと考えてよい。
例えば、今回の事件では、発端は姉妹の喧嘩だったと報道されている。逮捕は18歳を超えた長女に対する暴行とされているが、その場面を15歳の次女が目撃している可能性もあるだろう。
この場合、15歳の次女に対する「心理的虐待のおそれ」として警察は児童相談所に通告する。「おそれ」なので、事実の有無を特定する必要はない。児童相談所は、父から次女に対する心理的虐待として調査を行い、虐待の事実があれば、再発防止に向けた必要な指導を行うことになる。
「体罰」はすでに認められていない
「叩くのは、親のしつけ」は法的に否定されており、現在では認められていない。
旧民法822条は「親権を行う者は、監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と定めている。これが「しつけ」を口実とした体罰を正当化する根拠として使われているとの指摘が長年なされてきた。
22年12月の民法等改正で同条は削除され、新設された民法821条では「親権を行う者は……子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」と明記された。
法改正によって大きく変わったのが、警察の事件介入の深度である。このことは、あまり社会に共有されていない。
かつては、「夫婦喧嘩は犬も食わない」「親のしつけに外から口出しすべきではない」という言葉が普遍性をもっていた。しかし、児童虐待やDV(配偶者間暴力)に対する社会的対応を求める声が高まり、関係法令の改正などによって、警察の対応は変わってきている。


