2026年6月22日(月)

未来を拓く貧困対策

2026年6月22日

警察が最優先するのは被害者の安全・安心の確保

 その対応方針の中核をなすのが「被害者の安全・安心の確保」である。家族は、一つ屋根の下に暮らしており、外部の目も入りにくい。暴力が一時的なものなのか、それとも継続的なものなのか。家族の中に支配・被支配の構造は存在するのか。これは、すぐにわかることではない。だからこそ、危機管理は「最悪の事態」を想定して対応することになる。

 暴力をふるった場合、その軽重や継続性は問わない。その場では、「他の場面で、ひどい暴力を振るわれている可能性」「継続して暴力を振るわれている可能性」を否定できないからである。

 もともと暴行罪(刑法第208条)は親告罪ではなく、被害者の告訴がなくても、警察・検察の判断で捜査・立件が可能である。近年の警察は、この原則を厳格に適用し、現行犯逮捕という『令状主義の例外』をためらわず執行する傾向にある。

 そして、警察は事件の公表も躊躇しない。社会的地位があるからという理由で公表を取りやめれば、その対応が厳しい社会の批判にさらされることを熟知しているからである。 今回の事案で警察が迅速に動いたことは、何ら例外的な対応ではない。

「辞任の前例」ができた

 ここからが、経営者・人事担当者にとっての本題である。

 今回の事案で重要なのは、「逮捕という事実そのものが記者発表の対象になり、即座にメディアとSNSで拡散する」という現実が改めて示されたことである。

 プロ野球の監督という著名なポジションだから注目された、という見方は正確ではない。逮捕情報は警察の記者発表を通じて公になり、報道機関がそれを記事化すれば、本人の社会的地位の大小にかかわらず拡散する。経営幹部であっても、中堅企業の管理職であっても、この構造から逃れられる立場はない。

 もちろん、「たまたま」「運よく」社会的に注目されないということはあるだろう。しかしそれは、『会社の命運をめぐる機密文書が道端に放置されていて、たまたま、運よく、誰の目にも触れなかった』という危うい確率論に依存しているに過ぎない。ひとたび公になれば、企業のガバナンスは一瞬で崩壊する。

「逮捕→即日辞任」というスピード感

 そしてもう一つ、今回の事案がつくった重要な「前例」がある。「逮捕→即日辞任」という対応のスピード感である。

 阿部前監督は、逮捕から数時間で釈放されたが、翌日朝には山口寿一オーナーに辞任を申し入れ、球団はこれを即日受理した。巨人では球団創立以来、休養を含めたシーズン途中での監督交代は初めてのことだったとされる。この一連の流れが社会に広く共有されたことで、今後類似の事態が起きた際、「なぜあの会社の役員は辞めないのか」「巨人はすぐ辞任したのに」という比較がただちに発生する土台ができたと考えるべきである。

 つまり、経営者・人事担当者は、もはや「個別の事情を慎重に検討して対応を決める」という時間的余裕を、世論から与えられない可能性が高い。対応の遅さそのものが、企業のコンプライアンス意識を問う材料として消費される時代に入ったのである。

 これは脅しではなく、現実の認識である。家庭内の事情で逮捕者が出た場合に、企業がどう動くかをあらかじめ検討していない組織は、今後、事案そのものへの対応よりも「対応の遅さ」への批判で社会的信用を損なうリスクを負う。


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