裏目に出ている中道左派のイメージ
2点目は、これが主要な原因と言えると思うが、ブランドに政治的なカルチャー対立が絡んできた歴史の結果、ブランドイメージの混乱を招いているということだ。スターバックス発祥の地であったワシントン州シアトルでは、ロックバンドのニルヴァーナなどに代表される左派系のヒッピー文化を原点としている。シアトル市内のパイクプレイスという市場の場外にある1号店は、今でも世界中からスターバックスの信者が「巡礼」に訪れており行列が絶えない。
その後、90年代中期にスターバックスはユナイテッド航空と提携、シカゴのオヘア空港を舞台に大々的なブランド戦略を立ち上げて、業界の革命児となった。ワシントン州も、そしてシカゴのあるイリノイ州も民主党の牙城であり、土地柄も含めた中道左派的な政治的立ち位置も、そのブランドと表裏一体となっていた。
この傾向は、コロナ禍の直前まで非常に明確になっていた。例えば、アメリカの保守州では、銃の誇示携行権、つまり「自分は銃をぶら下げている」ことを誇示することで、暴漢の襲撃を抑止するという行動が許されている。けれども、スターバックスは、銃の誇示をする消費者の来店を「世界統一の規準」として禁止し、これに抵抗する保守派との確執が長く続いた歴史がある。
また、ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の生命の尊厳)運動が盛んな時期には、フィラデルフィアのスターバックス店舗が、人種差別事案を起こした中で、米国内の全店を休業して、全従業員に徹底した人権教育を施して話題になった。
アメリカにおけるスターバックスは、中道左派的なカルチャーというのがブランドイメージとして定着していたのである。
けれども、長引いたコロナ禍、そしてトランプ大統領に象徴される右派のカルチャー運動の躍進が、この「スタバカルチャー」に濃い影を落とすこととなった。さらに、インフレが加わることで、スターバックスは「グローバリズムに乗った富裕層のリベラル文化」を象徴するものとして、批判の、あるいは忌避の対象となっていった。
そんな中、同じリベラルの中でも、若い世代を中心とした民主党左派のグループは、スターバックスは「グローバリズム」や「格差」「自然破壊」の象徴だとして批判を強めている。特に、ワシントン州シアトルの市長に就任した左派のケイティ・ウィルソン氏は、高額なスターバックスは庶民性への挑戦だとして批判を繰り返した。時には労組のストを支持し、時には高額な価格への批判から「ボイコット」を呼びかけるなど、その言動は過激化しており、怒ったスターバックスは市内の「1号店」を閉鎖するとして市長を脅すという事態ともなっている。
