埼玉県行田市の水城公園内にスターバックス(以下「スタバ」)を出店する計画について、同市は2025年3月、中止を公表した。計画は24年8月に始まり、公募でスタバが優先交渉権者に選定され、行田市との基本協定が締結されていた。
計画では、45席の店内と10席のテラス、ドライブスルーを備えた店舗が2025年12月にオープンすることとなっていた。年間の来店客は市の人口の2倍を超える18万人が見込まれていた。
しかし、市中心部である公園の駐車スペースが狭くなるとして市民団体が建設中止を要望。一方で、出店を求める4000筆近くの署名が集まるなど市民の賛否が割れていた。
スタバの出店により地域経済の活性化が期待される中で出店中止となった今回の計画からの経緯は、公園を活用した公民連携の可能性と課題を示していると言える。他の地域での公園活用の事例を見ながら検証してみたい。
駐車スペースの減少が焦点に
行田市は「和装文化の足元を支え続ける足袋蔵のまち行田」として埼玉県で唯一「日本遺産」に認定されている。財務省広報誌ファイナンス令和7年4月号の筆者の連載コーナー「路線価でひもとく街の歴史」で水城公園をはじめ街の見どころを紹介している。
水城公園は、映画にもなった和田竜の小説『のぼうの城』(小学館)で知られる忍城の外堀跡を造成した都市公園である。中央に大きな「しのぶ池」があり、休日には釣り糸を垂らす人も見られる。
スタバ予定地となった駐車場は熊谷バイパスに通じる幹線道路「南大通り」に面しており、車通りが終日多い立地だ。南大通りに面して公園駐車場の隣にオープンモール、ガソリンスタンドがある。公園カフェは南北に公園を貫く「公園通り」との角地になるため、ドライブスルーにも便利だ。
出店計画での議論の的は駐車場だった。カフェ出店予定の駐車場の北側には、17年5月に新築した「忍・行田公民館」がある。公民館から見れば公園駐車場は公民館前にあり、公民館の利用者がよく使っていた。
現状、駐車場には障がい者区画を除き102台分の駐車スペースがある。このうち南大通り、公園通りに面する41台分を撤去してカフェ店舗を新築し、11台分がカフェ専用駐車場になる計画だった。差し引き50台分の駐車スペースは公園利用者とカフェとの共用となる。
公民館利用者の駐車スペース不足と周辺道路の渋滞を懸念する声に対し、市は代替策を講じた。1つは公民館から公園通りを横断し約200メートル(m)北にある、別の公園カフェ「ヴェールカフェ」北側に今春造成した駐車場40台分、もう1つが南大通りに沿って約400m東にある旧荒井八郎商店の駐車場30台分である。旧荒井八郎商店は行田市が観光振興の一環として購入した西洋館(国登録有形文化財)だ。2つの駐車場は公民館からは離れているが、水城公園に来園する車を分散できれば公民館の混雑緩和も期待できる。
それでも公民館の利用者からは「利用者に高齢者が多く、歩くのが大変」という声が上がっていた。そのため、追加して公民館北側に40台分の駐車場を造成することが24年12月19日の市議会で可決された。これにより40+30+40で110台分の駐車スペースが増える計算となった。
ただ、公民館北側駐車場の造成には、園内の樹木や湿地帯への影響が別の市民団体から指摘された。これに対して市は「懸念されているような樹木の伐採は行いません」と応じている(行田市webサイト「水城公園駐車場内へのスターバックス出店の経緯についてのご報告」)。