2026年6月30日(火)

インドから見た世界のリアル

2026年6月30日

 安倍首相の考えは、12年に書いた英語論文「アジアの民主主義国による安全保障ダイヤモンド(Asia's Democratic Security Diamond)」によって、より率直に説明された。要するに、中国の行動が攻撃的になっており、民主主義国4カ国で協力して、対応するべきだ、というものであった。

 確かに、中国対策を考えると、中国が抱える領土問題は太平洋側だけではない。中国はインドやブータンとも領土問題を抱えている。

 もし「インド太平洋」としてインド洋も含めれば、中国が抱える安全保障問題がすべて含まれるようになるのである。そして、このインド太平洋において、影響力のある国を挙げ、そこから中国だけ除くと、QUADになる。QUADは中国以外の大国があつまり、中国対策を話し合う枠組みであった。

 しかし、この「インド太平洋」も「QUAD」も、インドなしには成り立たない。インドがいないなら、「太平洋」でよく、日米豪だけの協力なら、QUADのような新しい枠組みはいらない。もともと日豪はアメリカの同盟国で、協力する機会は多いからだ。

 つまり、アメリカが今になって、「インド太平洋」という呼称を使わなくなり、「太平洋」というようになったのは、インドへの優先順位を下げたものとみられるのである。

なぜインドへの優先順位を下げたのか

 第2次トランプ政権になって、優先順位を下げられた国は、インドだけではない。ヨーロッパ諸国も同じだ。

 トランプ大統領は、ヨーロッパ諸国がもっと、安全保障上の負担を分担し、ヨーロッパの安全保障は自分たちで担うよう求めた。そして、十分に国防費を上げず、安全保障上の負担をしない国は守らない、と言ったのである。

 実は、今、アメリカは、アジアでも同じことを言っている。アメリカの国益への貢献度に応じて、アメリカからの支援を変えることを述べているのである。だとすると、インドは引っかかる可能性がある。

 インドは、「インド太平洋」や「QUAD」といった枠組みが、中国から対中軍事同盟として見られるのを警戒してきた。もし中国が、そのようにみると、真っ先にインドに攻めかかる可能性があるからだ。

 インドは、アメリカの同盟国ではない。日米豪に比べ、つながりが弱い。中国はインドに圧力をかけ、QUADから出ていくよう圧力をかけるだろう。

 しかも、日米豪とは違い、インドと中国には陸上国境がある。海を越えて攻撃するより、はるかに攻撃しやすい。

 実際20年、中国はインドを攻撃した。いわゆる「ガルワン事件」で、インド側は死者20人、負傷者76人(中国側は不明)を出した。

 本当にこのようなことが起きる中で、インドは中国を刺激しすぎないよう、インド太平洋とQUADとの協力姿勢を進めてきた。軍事的なことは目立たないよう2国間で進め、QUADの枠組みでは避けてきた。

 しかし、このようなインドの慎重な姿勢は、アメリカから見ると、アメリカの国益に貢献していない、消極的な姿勢に見えたようだ。25年8月、アメリカのナバロ大統領補佐官は「同盟国(戦略的パートナー)として扱われたいなら、そのように振る舞うべきだ」と述べている。

 直接的には、インドがロシアから原油を輸入していることについて言っているのだが、アメリカはインドの姿勢全般も問題視してきたことも背景にあるとみられる。「インド太平洋」から「太平洋」に呼称が戻ったのは、そのような背景がある。


新着記事

»もっと見る