政治問題に翻弄され、スタッフも揃わず、回復時間も奪われる。普通ならチームが分裂してもおかしくない環境だった。しかしイランは逆だった。不条理な状況が、むしろ「国のために戦う」という意識をさらに強くした。DFラミン・レザイアンは試合後、こう語っている。
「母国イランの人々は、誰よりも幸せになる価値がある。私たちは人々のために命を懸けて戦った」
国内で苦境に立たされる国民へ希望を届ける。その使命感が、選手たちを最後まで走らせ続けた。
もちろん精神論だけではない。エースのタレミを中心に、欧州で経験を積んだ選手たちは高い個人能力を発揮した。タレミは前線でボールを収め、時間を作り、相手からファウルを誘い続ける。万全ではないコンディションでも攻撃の起点となり続けた。
守備陣も規律を崩さない。疲労が蓄積する状況でもコンパクトな守備ブロックを維持し、ベルギーやエジプトの攻撃陣に決定機を多く与えなかった。派手さはない。しかしイランらしい現実的で粘り強いサッカーは最後まで揺らぐことがなかった。
あと数センチで歴史が変わっていた
この大会最大のドラマが最終戦エジプト戦だった。1-1で迎えた後半アディショナルタイム。フリーキックからの混戦でDFショジャー・ハリルザデーが押し込み、イランベンチは決勝トーナメント進出を確信した。
しかしVARチェックの結果、判定はオフサイド。一見するとエジプトDFが前に残っておりオンサイドにも見えたが、この場面ではGKモスタファ・ショベイルが前へ飛び出していたため、「2人目の守備者」の位置が通常とは異なっていた。ハリルザデは、そのラインをわずか数センチ越えていた。
歓喜は絶望へ変わる。さらにその直後にはサイード・エザトラヒのヘディングシュートがクロスバーを直撃。あと数センチ低ければ歴史は変わっていた。
イランは最後まで勝利を目指したが、そのまま試合終了。G組の3位で終わり、その後行われるグループの結果に委ねられたが、K組のコンゴ民主共和国がウズベキスタンに逆転勝利したことで、勝ち点4を獲得。イランとA組の3位だった韓国を上回り、先に韓国の敗退が決まる。
イランの命運はJ組のアルジェリアとオーストリアの結果に委ねられた。ともに予選突破が事実上決まっている”談合試合”の予想も多かった試合は前半28分、オーストリアのマルコ・アルナウトヴィッチが決めた先制弾を皮切りに、一転して激しいシーソーゲームとなったが、最終的には3-3の引き分け。決勝トーナメント進出は目前で消えた。
