日本的な感覚でいえば、有力政治家であるからといって、選挙日程を配慮して量刑を決めることなどありえない。一般的な刑法犯は別として、政党助成法の違反等、政治家ならではの犯罪の場合は、執行猶予も含めて一律5年間の公民権停止である。この点、フランスでは、裁判官が、判決がもたらす政治や社会への影響に配慮する傾向があり、フランスの司法文化の特徴ともいえる。
今回の場合、破棄院の判決が決定的な効果を持つことになるが、可能性としては(1)控訴審判決を破棄して差し戻す(2)これを支持し判決が確定する(3)検察の上訴を認めて判決を差し戻す(この場合には一審の判決がその間適用される)という3つの理論的可能性がある。ルペンにとって、(1)であれば刑の執行は凍結されるので問題ないが、(2)となると電子監視タグの装着と自宅拘禁ということになり、そのような状況で引き続き立候補を維持するのか判断する必要が生ずる、(3)となれば、後継者のバルデラに交代するしかない。
立候補は、第1回投票の6週間前に締め切られるので、破棄院としても1月頃には判断を下すであろうとみられている。フランスの司法文化を考慮すると、ルペンの有罪は維持して司法判断の筋は通しつつも、政治的影響を考慮して立候補は許容し、有権者が判断する上で自由な選挙運動を認めるような中間的な判決となる可能性も高いように思う。当選すれば大統領在任期間中は免責となる。
中道派はどう戦うか
判決直後の世論調査では、ルペンの有罪判決を過半数の国民が支持はしているが、大統領選挙の第1回投票ではルペンが36%でトップであり、中道派のエドゥアール・フィリップ(19%)やガブリエル・アタル(16%)を引き離しており、決選投票でもルペンが勝利する可能性が示唆されている。従来は、ルペンと中道派の決選投票となれば、2・3位連合で左派や浮動票が中道派候補を支持して逆転するとの見通しが有力であったが、ルペンの国民連合は着実に支持率を伸ばしてきているようである。従って、中道派は、早期に候補者一本化を図る必要がある。
仮にルペン政権となった場合の年金支給年齢引き下げ等による財政悪化、欧州連合(EU)内の不一致、欧州安全保障への影響などの不安要因は無視できない。また、首相候補のバルデラとの間には、EU、北大西洋条約機構(NATO)、ウクライナへの対応や年金問題について意見の不一致があり、調整が必要となるとも伝えられている。
ルペンの司法の敵視や自国民優先、特定宗教の差別、国民投票の活用、国内法のEU法に対する優先といった公約には、権力分立と人権保障、法の支配といったフランス人権宣言以来の伝統的な価値観を損ないかねない主張が含まれている。来年の選挙がそのような危機感を国民との間でどこまで共有できるかが、中道派にとっての鍵となるだろう。
