2026年9月30日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年9月30日

すれ違う米中の思惑

 しかし筆者のみるところ、中国のこのような試みはただちに成功しているようには見えない。むしろこのような言説に対して米国側も表向き「呼応」していること自体が米中関係の複雑さの産物であるようにも思われる。

 このことは、米中双方が今回の会談の成果を盛り込んだ「共通認識(中)」「ファクトシート(米)」の内容を比較すると見えてくるのではないか。

 まずは、中国側発表の要約を列挙する。これらの内容は米国側のファクトシートにも記載されている。(下線部は筆者による)

一、 双方は尊重・公平・対等な建設的戦略安定関係を構築する。
二、 双方はそれぞれが主催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と主要20カ国・地域(G20)首脳会議を互いに支持する。
三、 両国はイランが核兵器を保有せず、如何なる国も国際海峡で通行費を取らないことに同意する。
四、 両国は、中国と米国が第二次世界大戦で盟友として共に闘い勝利したことを思い起こす(憶及、英語ではrecalled)。
五、 両国は、貿易理事会の設置や300億ドルの関税引き下げなど、中米貿易交渉の成果を評価する。
六、 中米両国法執行部門による違法薬物や毒物に対する取締は、可視的な成果があった。
七、 双方は中米両国AI(米国はSI。華語では人工智能)対話に合意する。
八、 米国は中国がアトランタ動物園にパンダを貸し出すのを歓迎する。

 しかし米国「ファクトシート」をみると、中国「共通認識」が示さない内容が多々ある。

*石油精製製品のグローバル供給安定のため、米国は中国に増産を促す。
*両国による貿易委員会は、中国の農業市場への農漁業産品・化粧品や医薬品の輸出、および米国への小型家電や玩具等の輸入に関するワーキンググループを立ち上げる。
*米国石炭産業の復興に伴い、中国は2027・28年に毎年1000万トンを輸入する。
*両国は投資委員会を立ち上げ、投資の機会やポテンシャルを話し合う。
*レアアースなど、稀少鉱物のサプライチェーンをめぐる協議を継続する。
*(イランのみならず)ロシア・北朝鮮をめぐる国際的懸念事項について協議した。
*第二次世界大戦以来、米国の軍事的プレゼンスは開かれたインド太平洋の維持に貢献し、世代にわたる米国の国益に貢献してきた。
*トランプ大統領は米中露による軍事力コントロール交渉を提唱した。
*両国はAIに代わってSIという表現を用いることに合意する。

米国とのディールとしての「同盟と抗日」?

 以上を比較すると、習近平氏が恐らく執拗に提議したであろう台湾問題に関して、トランプ氏から何ら成果も言質も得られなかったことが分かる。あるいは、即座に公にはできない密約があるのかもしれない。しかし中国は、ロシア・北朝鮮が引き起こす問題の背後にある中国の存在感を含めて、米国側から様々なディール・要求・批判を浴びせられ、習近平氏(および、それに先立つ中国の外交当局者)はかなりの譲歩を強いられたことが分かる。

 その代わりに、中国側はこと日本の歴史的評価に関しては絶対に譲らない姿勢を貫いたと思われる。米国側としても、第二次世界大戦時には中国の側に立って日本と戦ったことは事実である以上、一応の共通認識として、「思い起こす=recall」という表現を採ったのではないか。

 もちろん、当時の中国は中華民国であり、日本に対する抵抗の中心は蒋介石・国民党であり、その中華民国は台湾と幾つかの島々に収縮しつつも現存する以上、当時存在しなかった中華人民共和国が当時の米国との同盟を主張するのはおかしい、という考え方は当然ありうる。とはいえ、その後国共内戦を経て中華人民共和国が成立して大陸を支配し、彼の地における「抗日」の記憶を継承していること、および1970年代初頭の国際政治の激変で日本も中華人民共和国が中国唯一の合法的な政権であることを承認した以上(日中共同声明)、当時の抗日の歴史と国際関係も中華人民共和国に継承され、中国がそのことを第三国との外交の場でも持ち出すことを止め得ないといえる。

 したがって日本側が問題とすべきは、かつて中国と米国が同盟国であったことを「思い起こす」という文言そのものではない。その裏にある中国の中長期的な意図・作為と言説そのものであり、それに対して日本や外界はどう対応するのか、ということであろう。


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