2026年10月13日(火)

Wedge REPORT

2026年10月13日

参考となる明治神宮

(tang90246/gettyimages)

 では、環境や防災、景観などを重視した森づくりはどうか。多くの種類の動植物が住む豊かな森に仕立てるにはどうしたらいいか。近年はネイチャーポジティブの観点からも、林業地であっても生物多様性は重視されつつある。

 だが多様な木を植えたら多様な森になる……というほど単純ではない。技術も確立していない。自然(に近い)森の作り方を求めて、世界中で試行錯誤されている情況だ。

 その中で、日本には大いに参考になる事例がある。明治神宮だ。東京都心のど真ん中に73ヘクタールの神域があり、大半が原生林と見紛うばかりの森に覆われている。これは人工的につくられた森なのである。

明治神宮の参道から上を見上げると大木に覆われている(筆者撮影)

 1912年に明治天皇の崩御後、明治神宮の創設が決まり、15年より建設が始まった。敷地に御料地と青山練兵場が充てられた。当時は田畑や原野の広がる土地だった。

 そこに神社に相応しい森づくりが開始される。計画を練ったのは、東京大学の本多静六教授のほか、本郷高徳や上原敬二ら林学者だった。

 そして照葉樹林(常緑広葉樹林)を基本とする森が計画される。予定地の原植生(人が影響を与える以前にあった植生)に近く、手入れしなくても育つから維持費があまりかからないからである。

 それに対して当時の大隈重信首相は、神社なのだから杉並木のある荘厳なものにすべきと主張したが、本多は予定地の地質や煙害のある都心で針葉樹は不向きと説得している。

 ただ最初から照葉樹ばかりを植えたわけではない。まず全国から12万本もの献木が寄せられ、その中には針葉樹や落葉広葉樹も多かった。そこで植生遷移の考え方を取り入れて、150年かけてシイやカシ、クスなどの森に移り変わるよう設計した。

 だから最初は、針葉樹や落葉広葉樹も多く植えられた。だが時代とともに育つ樹種は移り変わっていく。

 マツやスギなどは少数を残して枯れ、広葉樹も落葉樹より照葉樹が増えた。大木もあれば、低木、そしてさまざまな草も生える。参道の巨大なクスを記憶する人も多いだろう。今では鳥類や昆虫だけでなく、タヌキが住みついていることも確認されている。

 建設から100年を超えた現在、すでに原生林的な様相を形成するまでに至っている。150年後に成立すると計画したのに少し早まった。本多の、唯一の誤算かもしれない。


新着記事

»もっと見る