2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2014年9月20日

 難聴が無いというだけで、音楽の才能を本気で信じる親もいないだろう。しかし、このような才能遺伝子検査の内容についての検証は日本のメディアでもあまりされておらず、「遺伝子レベルでの判断であるから絶対的である」と、結果が鵜呑みにされているのが実情だ。(才能遺伝子検査の信頼度の検証については、『Wedge』10月号に詳説)

「究極の個人情報」、取り扱いには注意

 ところで、専門家たちが才能遺伝子検査の科学的・倫理的な問題以上に心配するのは、海外に流れた日本人のゲノム情報の使われだ。遺伝子は、いわば「ゲノム」という個人情報がぎっしり詰まったハードディスクのようなもの。海外に出された検体がきちんと保管され、全DNA情報を隅から隅まで読み取る「フルゲノム解析」が一般的になった暁には、これら日本人のゲノム情報が、外交や治安戦略に関連するような思いもかけない使われ方をする可能性もあると専門家は口を揃える。才能遺伝子検査を含めた現状の個人向け遺伝子検査は、ゲノム情報全体のごくごく一部のしか読んでいない。フルゲノム検査とは異なり、現状、そこから言えることは極めて限定的だ。

 今年の7月9日、ベネッセの個人情報流出が発覚した。外部に流れていたのは、子供と親の名前、住所、電話番号、生年月日など2070万件あまり。騒ぎにはなったが、実害は、せいぜいダイレクトメールがたくさん来るようになるということくらいだろう。

 とはいえ、個人情報が知らぬ間に他人の手に渡れば、やはり腹立たしく感じるというのが人の心。今どきは、会員カードを作る場合やアンケート調査の際に住所や名前を聞かれるだけでも、「教えるものか」と反射的に思うことがある。

 一方、遺伝子に書かれたゲノム情報は、ひとりひとつだけの「究極の個人情報」。世界にふたつと同じものは無く、引っ越そうが、結婚しようが、こればかりは変えられない。遺伝子検査会社にあずけたゲノム情報は、ベネッセにあずけた住所や電話番号とは違うのだ。

 10年前に100万円して1週間かかっていたフルゲノム解析は、今や10万円のコストで1日のうちに終わるようになった。個人向け遺伝子検査の普及で、「フルゲノム解析1万円時代」も遠くないと言われる。フルゲノム時代の到来で、才能から疾患のリスク、体質など、その人の「素性」がすべからく明らかになるという考え方もある。

 「色んなことが分かりそう」と期待感の高まる個人向け遺伝子検査。うっかり渡した「遺伝子=個人情報」で、ダイレクトメール以上の被害にあうことのないよう、皆さま、くれぐれもご用心のほど。

本記事はWedge10月号第2特集の関連記事です。本誌では遺伝子検査ビジネスについてより詳しく解説しています。
『あなたのゲノム、お値段「マイナス3万円」遺伝子検査ビジネスは「疫学」か「易学」か』
・DeNA、ヤフー 大手参入で盛り上がる検査ビジネス
・東大がやっても「遺伝子占い」アンジーとは違う代物
・長すぎる同意書 知らぬ間にゲノム情報は第三者の手に
・「医療」の手前で結びつく 遺伝子、サプリ、人間ドック

◆Wedge2014年10月号








 

 

  


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