「石」の多い玉石混交
才能のように定義がなく数値化できないものをどのように見ているのか、検査対象として公表されている遺伝子について調べてみた。色彩感覚の敏感性が分かるというCBP、CDBは赤緑色覚異常の診断に用いる遺伝子。おそらくは、色彩感覚の「個性」ではなく「色覚異常」やその重症度を判定しているのだろう。色覚異常でないことが分かれば、色彩感覚の敏感性は「優」、軽度の異常であれば「良」という結果がくるのだろうか。
続けて見ていくと、音感については難聴に関連する遺伝子を、理解力については認知症などに関連する遺伝子を見ているほか、業界関係者によれば、社交性については1匹のマウスが入った箱に別のマウスを入れた際、もう1匹に近寄っていくかどうかを調べた動物実験の論文を元にしているらしいという。ここだけ見ると検査全体が詐欺的といった印象も受けるが、そうとも言えない。運動能力分野について調べているのは瞬発力や持久力との関連が報告されるACTN3という遺伝子。多くのいい加減な情報の中に、それなりの信頼度をうかがわせる情報が少し混ざるのが利用者を惑わせる。
DeNAをバックアップし、共同研究を行う東大医科研ヒトゲノム解析センター教授の宮野悟氏も「項目ごとに情報の信頼性はかなり違いますね」と、現在の個人向け遺伝子検査が持つ有用性の限界を認める。
シークエンサーやスーパーコンピューターの進歩による検査時間の短縮や低価格化は、遺伝子検査そのものが進歩したような印象を与える。しかし、ある特徴を見るために適切な遺伝子が存在しない場合、また、遺伝要因が疾患発症要因のどのくらいを占めるのか、そのSNPがどう疾患や体質と関連しているかがブラックボックスである以上、分かることが増えても「占いの域」を完全に脱するのは難しい。
機械が賢くなっても、東大がやっても、その数字の持つ影響の曖昧さは変わらない。では、今後、利用者が増え、データが蓄積していけば本当に検査の信頼性は上がっていくのだろうか。
「SNPだけ見ていても未来はありません。今、SNPだけを見ているのは単にコストの面から。もっと利用者が集まって検体が蓄積し、コストも下がってきたら、本当にやりたいのはフルゲノム解析です」(宮野氏)
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