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2015年1月30日

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安井至 (やすい・いたる)

持続性推進機構理事長、東京大学名誉教授

東京大学大学院工学系研究科博士課程終了後、同生産技術研究所で助手、講師、助教授、教授。同国際産学協同研究センター長を経て58歳で辞職し国際連合大学・副学長。科学技術振興機構、製品評価技術基盤機構理事長を務めた後に現職。

軽すぎる水素がうむエネルギー負荷

 将来重要な役割を果たす水素ではあるが、「軽すぎる」ことが弱点である。 ガソリンとその軽さを比較してみよう。1リットルのガソリンは、35,000kjという熱を出す。この熱で40℃のお湯を400リットルほど得ることができる。熱効率を考えれば、お風呂1回分ぐらいである。一方、水素1リットルの発熱量は、たったの11.7kjである。40℃のお湯130ml程度に相当するので、コップ1杯分沸かすことができないことを意味する。

 「軽すぎる」ことが問題になるのは、「運搬」と「貯蔵」をするときである。すなわち、水素をどうやってFCVに搭載するかが大問題だった。この問題の解決法は、700気圧という高圧にして、カーボンファイバー強化プラスチックのタンクに入れるという方法である。700気圧とは、良く見かける産業用の高圧ボンベは150気圧なので、その5倍に近い圧力である。

 水素ステーションでは、水素をさらに高圧にしてFCVに供給することになる。MIRAIが満タンになるだけの水素を700気圧以上にするためには、多くの電力が必要で、それは同クラスのEVを100~150km走らせる電力量に相当する。

 液化すればその体積は、ガソリンの3.5倍程度で収まる。しかし、液体水素はマイナス252.6℃で沸騰してしまう。気体に戻った水素は処分をしなければならない。結論として、自動車に液体水素を搭載することは不可能である。単に駐車しているときにも燃料が失われる上に、もし、マンションの地下駐車場であれば、放出した水素が天井付近に溜まって大爆発を起こす可能性が大だからである。

 個人的には、化石燃料の実体は「地球を破滅させる悪魔」だと称している。地球の大気は人類が出すCO2のゴミ捨て場になっている。東京都の場合、廃棄物は焼却され、焼却灰は東京湾の中央防波堤最終処分地に埋め立てられるが、その容量には限界がある。今のペースでは、数十年後には廃棄物を出すことができなくなる。

 14年11月に発表されたIPCCの第5次評価統合報告書によれば、産業革命時点からの温度上昇を2℃とか3℃に決めれば、それによって排出できるCO2の量が決まってしまう。もしその限界に到達すれば、それ以後、CO2を排出できない、と記述されている。

 すなわち、大気も実は廃棄物処分場と似ているということを意味する。仮に2℃上昇までと決めると、世界全体で現在の排出量を全く増やさないという不可能な仮定をしても、35~40年後には、CO2排出量をゼロにしなければならない。現状でも、異常気象は確実に増えているが、2℃上昇であっても、将来の異常度は想定を超えることだろう。となると化石燃料は、35~40年後にはそのままでは全く使えないと考えるべきなのだろう。

 代替案のひとつである原子力は、「暴力的人物」である。余りにも大量のエネルギーを取り扱うことができるために、きっかけがあれば暴力的被害をもたらすからである。

 また、自然エネルギーは、「気まぐれな浪費家」である。その気まぐれに対応するためには、かなりのお金を貢がなければならない。水素は、この「気まぐれ」を抑える切り札になるかもしれないと期待されているのである。

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