こんな企業もある。AgICは導電性インクにより、自由に回路を描くことができるマーカーなどを販売する。塾では既に教材として導入されており、今年から小学校の教材に導入されることも内定している。
「電子回路の難しいイメージを変え、ゆくゆくはものづくりを誰もが体験できるプラットフォームをつくりたい」と語る清水信哉CEOは「拠点をアメリカへ移すつもりはない」と話す。
その理由について尋ねると、「日本には大企業に鍛え抜かれてきた町工場があります。図面をみせると『ここをもう少し変えれば良いモノになるんじゃないか』とアドバイスをくれます。こうした環境は日本ならではのものです。うちのマーカーも東大阪の町工場で製作しました」。
ハードウェアとインターネットを結び付けたユニークな製品を世に出し、CESでも高い評価を受けたCerevoの岩佐琢磨CEOは、「日本にはデザインと設計のノウハウがあり、ものづくりベンチャーの拠点としては利があります」と話す。
前回取り上げたスマートロックメーカーのフォトシンスには、NEC、ソニー、パナソニックの元エンジニアや町工場の職人が技術開発に協力してくれているという。こうした人材がいる点も日本にとっては有利といえる。
もちろんベンチャーが育つ環境として日本に足りない点は多いが、ものづくり大国としての歴史を築いてきた日本には、ソフトウェアとは異なり、ものづくりベンチャーにとって有利なアセット(資産)があるのもまた事実である。
資金調達についてはこんな意見もある。シリコンバレーでは、他のベンチャーのレベルが高く、並のレベルのベンチャーではまともに資金調達をすることが難しい。少額にはなるが、日本のほうが資金調達が容易で、結果として成功する率も高くなる、という意見だ。実際、アメリカへ移ったベンチャーで資金調達に苦しんでいるベンチャーもあるという。
ものづくりベンチャーが育つ環境は以前より進化しているといえるだろう。近い将来、IoT時代を牽引する企業が現れるかもしれない。
(写真・小平尚典)
*第3回へ続く
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