2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2015年3月13日

 こんな企業もある。AgICは導電性インクにより、自由に回路を描くことができるマーカーなどを販売する。塾では既に教材として導入されており、今年から小学校の教材に導入されることも内定している。

紙の上に置いたボタン電池とLEDランプを「銀ナノインク」の線でつなぐと通電する

 「電子回路の難しいイメージを変え、ゆくゆくはものづくりを誰もが体験できるプラットフォームをつくりたい」と語る清水信哉CEOは「拠点をアメリカへ移すつもりはない」と話す。

AgiC CEO清水信哉氏。電導性の「銀ナノインク」を用いたプリンタやペンを販売している。清水氏は2012年に東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程終了後、コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに就職。昨年1月にAglCを設立した。起業のきっかけとなったのは、大学時代の恩師である川原圭博准教授が開発した「銀ナノインクを使い家庭用プリンタで回路を印刷する技術」に出会ったことだった。

 その理由について尋ねると、「日本には大企業に鍛え抜かれてきた町工場があります。図面をみせると『ここをもう少し変えれば良いモノになるんじゃないか』とアドバイスをくれます。こうした環境は日本ならではのものです。うちのマーカーも東大阪の町工場で製作しました」。

 ハードウェアとインターネットを結び付けたユニークな製品を世に出し、CESでも高い評価を受けたCerevoの岩佐琢磨CEOは、「日本にはデザインと設計のノウハウがあり、ものづくりベンチャーの拠点としては利があります」と話す。

 前回取り上げたスマートロックメーカーのフォトシンスには、NEC、ソニー、パナソニックの元エンジニアや町工場の職人が技術開発に協力してくれているという。こうした人材がいる点も日本にとっては有利といえる。

 もちろんベンチャーが育つ環境として日本に足りない点は多いが、ものづくり大国としての歴史を築いてきた日本には、ソフトウェアとは異なり、ものづくりベンチャーにとって有利なアセット(資産)があるのもまた事実である。

 資金調達についてはこんな意見もある。シリコンバレーでは、他のベンチャーのレベルが高く、並のレベルのベンチャーではまともに資金調達をすることが難しい。少額にはなるが、日本のほうが資金調達が容易で、結果として成功する率も高くなる、という意見だ。実際、アメリカへ移ったベンチャーで資金調達に苦しんでいるベンチャーもあるという。

 ものづくりベンチャーが育つ環境は以前より進化しているといえるだろう。近い将来、IoT時代を牽引する企業が現れるかもしれない。

(写真・小平尚典)

*第3回へ続く

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◆Wedge2015年3月号より

 


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