2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年3月26日

 しかし、昨年5月のクーデターは、タクシン派と反タクシン派が一触即発の状況にあり、両者の本格的衝突を未然に防ぐために行われたという面を忘れるべきではありません。

 社説は、軍の計画通りに選挙が行われれば、タクシン派を再び街頭デモに走らせるだろうと言っていますが、もし社説が言う通りの選挙が行われた結果タクシン派が再び勝つと、今度は反タクシン派が街頭に繰り出し、タイ社会は再び混乱に陥るでしょう。タクシンがいる限り、タイの政治と社会の安定は望めないのです。

 タクシンの功罪については種々の評価がありますが、思い切った「ばらまき政策」をして、選挙では大々的な買票を行ったのは事実のようです。「ばらまき政策」に使ったのはシナワット財閥の金ではなく国家予算であり、コメの買い上げ制度では巨額の赤字を計上しています。このようなやり方をはじめ、タクシンの政治手法は独断的な側面が多く、伝統的エリートがタクシンを断罪しているのは、単に自分たちの既得権益が脅かされると感じたためだけではありません。

 タクシンがタイの政治から身を引くことを明らかにすれば、プラユットもあまりあからさまな「反民主主義的」構想を考えなくても済むでしょう。事実プラユットは密かにタクシンに政治からの引退を打診したと言われています。しかし、タクシンが首を縦に振らないので、タクシン派が再び政権を取らないような仕掛けを色々考えているようです。

 他方で、東北タイの農民をはじめとする低所得者層の伝統的不満に対処する必要は厳然としてあります。タクシンの政治的成功は、この不満に目を付け、それに対応したことでした。プラユット政権は、タクシン派の再登場を防ぐためいかなる措置を講じるにせよ、低所得者層の生活向上、政治参加への正当な要求に応える政策はしっかりと実施しなければなりません。それが実施されれば、低所得者層は、必ずしもタクシンに頼る必要はなくなるはずです。

  
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