時代を超えた共感を呼ぶ夫婦の物語
料理人になる夢を追い続ける篤蔵と、妻の俊子の物語もまた、時代を超えた共感を呼ばずにはおかない。
子どもができたことがわかった俊子は、実家に戻る。篤蔵は職場にいかなければならない。道端に妊娠した猫が横たわっている。俊子はいう。
「猫だってひとりで子ども育てるのですから、わたしも大丈夫です」と。
俊子役の黒木華は、語り手役も務めて、抑制した演技とともに、篤蔵との愛情の深さがよく伝わってくる。
青春はひとりで生き抜けるものではない。家族や周辺の人々の支えによって成し遂げられるのである。そのことがわかるためには、月日が必要である。
ドラマのなかで、料理長の宇佐美が「料理は技術ではなく、まごころである」というセリフの「料理」を「仕事」と言い換えれば、若者が成長するために必要なのは実は、周囲に対する感謝の気持ちである、ことになる。
わたしの口調が妙に説教臭くなるのは、年齢のせいとお許し願いたい。このドラマはけっしてそうではない。
日露戦争の戦闘シーンなど、ドラマのなかで記録映像が効果的に使われている。華族会館はいまではないが、ロケには、綱町三井倶楽部(港区三田)や三菱1号館(丸の内)など、明治時代の建築物が登場する。
ドラマの先には戦争の時代がある。篤蔵はそこで人生のなにを見出すのだろう。
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