2024年12月11日(水)

田部康喜のTV読本

2015年5月13日

 宮内省の料理場のトップである主厨長を大正から昭和にかけて務めた、秋山徳蔵の生涯を描くTBS日曜劇場・「天皇の料理番」は、日露戦争を時代背景にスタートを切った。

 フィクションを交えていることから主役名は篤蔵と変えて、佐藤健が演じる。婿養子先の高浜家の妻・俊子役は黒木華である。明治から昭和へ。福井の旧家の次男坊が歩む青春の道程は、現代史の上に刻まれていくのである。

「仕事に対する熱情」という現代性

 第3話(5月10日)に至って、華族会館の厨房の洗い係として働き始めた篤蔵に転機が訪れる。

 拾った財布の持ち主が、英国大使館のシェフの五百木竹四郎(加藤雅也)だったことから、華族会館の料理長の宇佐美鎌市(小林薫)には内緒で、仕事の合間に英国大使館でも働き始めたのである。一日でも早くシェフになりたいという、篤蔵の願いに五百木は打たれたのである。

 華族会館はかつての鹿鳴館であり、千代田区内幸町の一角には、旧大和生命が建てた高層ビルがある。華族会館は戦時中に取り壊され、その後をしのばせた門も空襲によって焼失した。

 旧大和生命の本社があったあのビルの受付に、鹿鳴館時代の建物につかった木材の一部がガラスケースに収められていたのを見た、記憶が懐かしい。

 ふたつの料理場をかけ持ちする、篤蔵は仕事の時間に間に合うように、下駄を手にもって息が絶えるようにして走る。内幸町から大手町をかすめて、竹橋、それから一番町の英国大使館まで。

 なにものかにせかされるような熱望にとりつかれるのが、青春というものである。明治の青年のそれは、平成の若者の希望と変わらない。それは表現が間違っている。

 現代の青年が追い求めている仕事に対する熱情は、明治の青年と変わらない。

 そこに、このドラマの現代性がある。


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