チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年5月22日

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 つまり、「太平洋における両国の覇権の棲み分けによって中国はアメリカと共存共栄できる用意がある」というのが、習主席がアメリカに持ちかけた「太平洋は広いから」という言葉の真意であるが、逆に、もしアメリカがアジア地域における中国の覇権を容認してくれなければ、中国はアメリカとの対立も辞さない、というのがこのセリフに隠されているもう一つのメッセージである。習近平は明確に、アジア太平洋地域における覇権を中国に明け渡すよう迫ったわけである。

 もちろんアメリカにしてみれば、それはとてもできない相談であろう。アジア太平洋地域におけるアメリカのヘゲモニーは、世界大国としてのアメリカの国際的地位の最後の砦であり、死守しなければならない最後の一線である。近代以降の歴史において、まさにそれを守るがために、太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争という3つの対外戦争を戦い、夥しい若者たちの血が流れた。そうやって確保してきたアジア覇権を、今さら中国に易々と明け渡すわけにはいかない。

 実際、オバマ政権になってからアメリカが「アジアへの回帰」を唱え始めたのも、2020年までに米海軍と空軍力の60%をアジア地域に配備する計画を立てたのも、まさに中国に対抗してこの地域におけるアメリカのヘゲモニーを守るためである。そういう意味では、アジア地域から米国を閉め出して中国の覇権を確立しようとする習近平戦略は宿命的に、アメリカとの対立を招くこととなろう。

経済面でもアジア支配の確立を目指す

 さらに、習政権は経済面での「アメリカ追い出し作戦」に取りかかっている。2015年の春から、アメリカにとって重要な国であるイギリスを含めた57カ国を巻き込んでアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の構想を一気に展開し始めた。これは明らかに、日米主導のアジア経済秩序を打ち壊して中国によるアジアの経済支配を確立するための戦略であるが、アメリカの経済的ヘゲモニーにまで触手を伸ばすことによって、習政権は米国との対立をいっそう深めたと言える。

 ここまで追い詰められ、流石にオバマ政権は反転攻勢に出た。そうしなければ、アジア太平洋地域におけるアメリカのヘゲモニーは完全に崩壊してしまうからだ。前述の日米関係の空前の強化はまさにその反転戦略の一環であろうが、日米両国による軍事協力体制の強化とTPP経済圏の推進はすべて、「習近平戦略」に対する対抗手段の意味合いを持っている。

 そして、4月下旬の日米首脳会談を受け、日本が先頭に立って中国のAIIB構想に対する対抗の措置を次から次へと打ち出した。

 まずは5月4日、アジア開発銀行(ADB)は、アジアでのインフラ整備に民間企業が投資しやすくするための信託基金を設立したと発表した。その中で、日本は4000万ドル(約48億円)を拠出。カナダ、オーストラリアの各政府とADBからの拠出分を足して計7400万ドル(約90億円)を集めた。

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