2024年12月10日(火)

メディアから読むロシア

2015年6月9日

 ただ強いだけではカラガノフ教授の言う「大ユーラシア」は築くことが出来ず、そこで責任あるプレイヤーになってもらわなければ困る、といったところであろう。

 ここで浮き彫りになっているのは、前半で2つの「メガ・プロジェクト」として取り上げた中国のシルクロード経済地帯構想とロシアのユーラシア経済同盟の根本的な思想の違いである。ロシアが進めてきたユーラシア経済同盟は「旧ソ連版EU」とでも言うべきものであり、関税や人・モノ・カネの移動など経済政策の統合を図る中で、旧ソ連諸国のゆるやかな連合体を実現することを最終的な目標としている。

 一方、中国のシルクロード経済地帯構想はこのようなものではない。欧州から中国本土に至る地域に中国資本を投入し、中国主導で欧亜間に巨大な経済空間を作り出そうというものであり、ユーラシア経済同盟と比べて遥かに壮大である一方、実態はいまひとつはっきりと定まらないものである。

 このように、2つの「メガ・プロジェクト」の間に根本的な溝がある以上、カラガノフ教授が言うように中国が「ユーラシアのドイツ」として振る舞ってくれる可能性はあまり高そうには思われない。

「中国の風がロシアの帆に吹く」のか?

 カラガノフ教授が西側との関係について述べた内容も意味深長である。ロシアは欧州との対話をいずれ再開せねばならない。しかしそれは「ユーラシアの文脈」の中で穏健に解決される、という点だ。これは、たとえウクライナ危機に落としどころが見つかったとしても、ロシアはもはやそれ以前と同じやり方で欧州と向き合うわけではない、ということを示している。

 「ユーラシアの文脈」がいかなるものであるかは明示されていないが、クリミア併合以降にプーチン大統領以下のロシア首脳部が繰り返し表明してきたのは、今回の危機がウクライナの西側接近を巡るものだけではなく、冷戦後の欧州秩序に対するロシアの不満が限界点に達したということであった。

 このように考えるならば、ロシアが今後、模索してくるのは、従前のような西側への統合ではなく、ユーラシアの大国として独自の勢力圏を持ち、それを西側にも認めさせるという方向になるのではないか。

 もっとも、そこで問題となるのは、やはり中国との関係であろう。ユーラシアの大国としての地位そのものを中国が脅かす可能性がある以上、ロシアは西側と中国との間で困難な舵取りを迫られよう。

 このインタビューのタイトル通り、「中国の風がロシアの帆に吹く」というほどうまくいくかどうか。その見取り図はまだロシアには描けていないように思われた。

  
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