2024年12月6日(金)

田部康喜のTV読本

2015年7月23日

 「このドラマはほぼ事実である」という字幕で始まるドラマは、結末まで幾度も驚かされ、泣かされる。

 BSプレミアム「洞窟おじさん」(7月20日)である。この2時間ドラマは、さらに10月1日から毎週4回にわたって「完全版」が放送される。

 1話完結のドラマがその後に展開されるという、珍しい編成である。「完成版」に向けて1話完結版は、いくつもの謎と余韻を残している。

父母の虐待から逃れるため 山で犬と暮らす

 父母の虐待から逃れるために、中学1生だった加山一馬は、昭和30年代初めに家出をして、山に分け行って愛犬のシロとともに洞窟暮らしを始める。

 ウサギや鳥を獲り、イノシシをワナにかける工夫もできるようになる。高熱を出して、生死の境をさまようが、シロの介添えによって救われる。しかし、その愛犬も死んでしまう。

 青年になった一馬は、ハイキングにきた農家の夫婦に拾われて、その家で農作業をしながら暮らすようになる。夫婦の一人息子は戦死している。一馬のからだが、その息子の残した衣服にぴったりなことに喜ぶ。

 夫の砂川義夫役の井上順が、風呂場で一馬の青年時代役の中村蒼の背中を流しながら語りかける。外で風呂を沸かしている妻の雅代役の木内みどりが、その会話を聴いている。

 義夫はいう。

 「わたしたちは息子をお国のために亡くした。妻も寂しがっている。もしよかったらうちにいてもらえないか、考えてくれ」

 一馬は悩んだ末に、夫婦と別れることになる。座ってお詫びの頭を下げる前に、一馬はふたりに語りかけるように思い出を語るのだった。

 「俺は人が怖い。また打たれたくない。母親も最初は優しかった。しかし、人が変わったようになった」と。

 夫婦は涙を浮かべるのだった。


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