2024年11月21日(木)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2015年8月24日

 現状では、必ずしも事態を深刻視するには当たるまい。それは、中国の所得増が年率10%以上と大きいため、仮に現状がバブル的でそれが弾けたとしても、年収が増えて住宅価格との倍率差は数年で低下し、長期の不動産・経済低迷には至りにくいからである。

 これは、失われた20年につながった80年代後半の不動産バブル期に次ぐ不動産価格高騰があったにもかかわらず、深刻な不動産不況や長期の景気低迷につながらなかった日本の70年代前半の状況に似ている。

 しかし、安心はできない。不動産市場でも、金融市場同様、将来的に中国経済の安定成長移行を織り込み切れないままに不動産市場下支え策等に過剰に反応することになれば、80年代後半の日本のような深刻なバブルを招く可能性はある。

バランス良く安定成長に至るかがポイント

 中国経済が減速しているとは言え、主要国と比べれば高成長が続いている。また、金融・不動産市場も発展途上にあり、成熟した先進国市場と単純に比べることはできない。中国経済を見る際には、なお日本経済や先進国経済とは異なる視点が欠かせない。

 このことは、移行期にある中国経済の景気減速を最近の経済指標から読み解くだけでは不十分ということを意味している。とくに、成長移行期にある中国経済では、先に高度成長期から安定成長期に至った日本や台湾・韓国などの経緯が参考となる。

 かつての日本経済では、高度成長から安定成長に至る過程で、成長移行の成功と不動産バブルの失敗などがあった。その経験を元にすれば、現在の中国経済は、成長移行の道筋に乗っている一方、金融不動産市場の乱高下が将来にも内外経済に悪影響を与えたり、バブルが生じて弾ける可能性もあると言える。

 その上で、今後の中国経済については、金融・不動産市場にくわえて為替相場の安定の中で投資と消費がバランスよく成長する状況に落ち着くことができるかがポイントであり、これが中国経済ウォッチに欠かせない視点でもある。

 足元の中国経済・金融は激しく動いている。しかし、経済・金融が揺れ動いている現状だからこそ、その分析に長期的な道筋を見極める視点も欠いてはならない。

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