2024年4月18日(木)

Wedge REPORT

2015年9月5日

「魂を入れる」

 ガバナンスの本質について「ROE(自己資本利益率)や株価を上げることではない。組織の権力メカニズムを健全に機能させるのがガバナンスで、その頂点にあるのがトップ人事だ。トップの任免に関わらない企業統治は『ごっこ』に過ぎない」と断言する。上場企業の多くが社外取締役制度(6月現在で東京証券取引所一部上場会社の92%が導入)を採用し形の上では整備が進みつつあるが、「社外取締役にトップの任免権を与えないとコーポレートガバナンスは何も変わらない。トップの任免に決定的に関われるようにならないと、社外取締役を増やしても『仏作って魂入れず』になってしまう」と警鐘を鳴らした。

 だが、社外取締役がメンバーの指名委員会に社長の任免権を与えることは「各方面から猛烈な反対がある」という。上場企業の多くが社外取締役にトップの任免権を与えたがらない理由について「現在の社長が次の社長の指名権を失うと、社長としての求心力を失うのではないかと思っている経営者が多いが、決してそうではない。立派な業績を上げていれば、部下の求心力を失うことはない。感情的な面から後任社長を自分で選びたい気持ちはあるだろうが、ちゃんとした社長を選ぶのは難しく、自分たちだけで社長を選ぶと過ちを冒すことを自覚すべきだ」と反論した。

 冨山氏がオムロンの社外取締役に就任した時に当時の社長、会長から、社外取締役会をメンバーとする社長指名諮問委員会に本気で次の社長指名を任せるお墨付きをもらったという。その裏返しとして「同社の取締役会などに出席して社長と意見を交わすときは、社長の任免ができる刀の鍔に手をかけているくらいの気概で話をする。オムロンは従業員を大事にし、しかもROE10%以上の良い会社だが、今後取り巻く経営環境が変われば今の状況が良いとは限らなくなる」と述べ、社外取締役の責任の重大性を強調した。

 東証上場企業の多くがこの数年の間に慌てふためいたように社外取締役を導入した。義務化に強く反発していたトヨタ自動車が03年6月、キヤノンが04年1月に導入に走った。長らく社外取締役の必要性を否定する急先鋒だった新日鉄(現在の新日鉄住金)も昨年の6月に2人の導入に踏み切った。だが、社外取締役3人を導入していたオリンパスが長年行われてきた粉飾決算を防げなかったように、この制度を取り入れたからといってコーポレートガバナンスの向上に直結するわけでない。

 冨山氏が強く主張する社外取締役による指名委員会にトップの任免権まで付与している企業は東証上場企業のうち100社にも満たないという。オムロンなどは例外的な存在だ。指名委員会会社ではないが、1999年に設置した外国人を含めたアドバイザリーボードで議論をして、その内容を取締役会に報告している企業では帝人が挙げられる。上場企業の多くの経営者が次期経営トップは自らが選ぶのが当然だと思っており、この人事権だけは離したがらない。会長、相談役に退いても人事権を行使して「院政」を行うなど、醜い権力行使を続けているのが実態だ。


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