「正解打率3割」
ダイエーやカネボウなどの企業再生を手掛けた産業再生機構のCOO以来、「再生請負人」として50人以上の社長誕生に関わってきた冨山氏は「人間は弱い生き物で、すべてのことができるわけではない。イノベーションなど大きな変動が予想される不連続な局面に対応するには、社外の人間の力を借りるべきだ。社外取締役など必要ないというのは傲慢で、いまは良いかもしれないがそのうち過ちを冒す。経営トップはすべての経営ができる神ではないことを認識すべきだ。特に国内中心だった企業が海外にシフトする時は要注意だ。企業が大きく舵を切るときは、これまでと違うものが必要となる。そういう時こそ、社内にない意見として社外取締役のアドバイスが重要になってくる」と忠告した。
多くの社長選びを経験してきた冨山氏でさえ「社長選びの正解打率は3割くらい。ごめんなさい間違いましたというのが2、3割はある」と振り返る。日本企業の場合は「社長になるのも初めてなることが多く、選ぶ側も初めて社長を選ぶことが多いためリスクが高い。4~5年も社外取締役をやっていると、日ごろから話を聞いているので、どの人物がトップにふさわしいか分かってくる。トップの能力は副社長とは違う能力が求められる。それだけにトップ選びは本当に難しい」と実感がこもる。
社長OBが社外取締役に
社外取締役は何をすべきかについて「日常のオペレーションは執行部に任せておけばよい。オペレーションには口を出すべきではない。あれこれ細かいことを言うと、何かあった時に執行部の責任を問えなくなるので、重箱の隅をつつくようことにはしない。会社経営の観点からみておかしい議案が提出された時だけ『ノー』と言えばよい。経営の根幹に関わるような大きく方向が変わるときに正しい方向に導けるかどうかが問われる。オペレーション管理と経営は本質的に別のもの」と、あくまで重要な経営事項、本質的な組織病理だけに注視すべきだという。就任する企業についての知識が必要かどうかは「業界知識は全く必要ない。経営の知識、経験があればそれでよい。日本航空の再生を託された稲盛和夫さんが航空業界に詳しかったわけではない」と説明した。
実際に就任している社外取締役の顔ぶれを見ると、トップの「お仲間、お友達」、重要取引先、取引先金融機関のOB、中央官庁の官僚OB、大学教授などが多く選任されている。こうした人たちが経営の知識が豊富で、企業経営について多くの教訓を持っている人物なら問題ないが、必ずしもそうではない。あまりにも急に社外取締役を増やさなければならなかったがゆえに、世間体の良い肩書だけを優先して選ぶ傾向がある。
こうした選任の仕方について「上場企業約3500社のうち毎年500人ほどの社長が退任している。今後、7000人の新たな社外取締役が必要になるとしても、毎年経営者のOBがなっていけば、将来的には十分供給できる。社長にまでなるような人は辞めても元気な人が多いから、新天地でもう一度頑張ってもらいたい。こうした人材を使えば、いまは需要に対して供給が足りない社外取締役も十分間に合うのではないか。これから10年ほど掛けて少しずつやっていけばよい」と社長OBの『再就職』を勧める。リタイヤした経営トップの多くが、ゴルフや海外旅行を楽しむなど隠居したい気持ちは分かるが、日本企業の将来のために、もうひと汗かいてもらってはどうだろうか。
機関投資家の行動原則を定めた日本版スチュアードシップコードが公表されたことから、今後は機関投資家が企業に対して多くの議決権を行使して働き掛けを強めることが求められる。日本企業はこうした機関投資家の動きに対応しなければならなくなる。その意味でも社内だけの考え方では対応に限界が生じる。新たな「血」は社外取締役を通して注入していくしかない。
冨山氏は最後にマスコミ各社に対して、「コーポレートガバナンスの改革は、『形』はできても『実』が追いつくためには、不断の努力が必要だ。メディアのみなさんもガバナンスが向上するよう応援してほしい」と要望した。
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