2024年11月22日(金)

ASEANスタートアップ最前線

2015年9月12日

 ITで起業する! とは決めていたが、どの分野で勝負するかは敢えて決めていなかった三上さん。こだわったのは、ITインフラが整備されている環境を狙った。マレーシアは、この観点で素晴らしかった。インターネットやスマートフォンの普及率も高く、銀行口座やクレジットカードの保有率も大きい。

 「ここなら、日本のタイムマシン経営で、勝てる領域があるのではないか」

 マレーシアへの思いが熱くなった。

 しかしながら、海外で起業というのは、そうたやすいことでは無い。ご家族もいる方なら尚更である。三上さんは、奥様と二人のお子様で4人家族。

 「単身で海外起業というのは考えませんでした。長期的には家族が崩壊してしまう。やるなら家族帯同で」

 実際、サイバージャヤを訪れてみると、首都のクアラルンプールとは異なり、穏やかな環境である。治安も良い。英語環境も充実していて、お子さんの教育にも良い。そして何より、生活コストが安い。シンガポールでは、仮に子供を一人インターナショナルスクールに通わせようと思うと、年間の費用は200万円かかるのが普通だ。しかしながら、マレーシアでは40-50万程度が相場だ。これなら、例え起業したとしても、生活できる。三上さんはサイバージャヤに生活の拠点を置き、勝負することを決意した。

SAMURAI Internetの設立

 マレーシアに来た当初、これをやろう! とは決めていなかったという三上さん。こちらに住むと決断してから目をつけたのは、東南アジアの不動産市場だった。現地の賃貸マーケットは、エージェントの力が強い。業界をリードするiPropertyやPropertyGuruといったサイトでは、エージェントが物件を掲載するが、個別のエージェントが物件を押さえているために、日本のように透明性のある情報が掲載されにくい。ネットで見た情報と実際の情報にかい離があったり、問い合わせた時には既に物件が無かったりなど、まだまだ問題があるのが実情だ。

オフィスにて

 そこで、三上さんは新築物件の個人販売に目をつけた。ここの領域なら業界の慣習にとらわれることなく、デベロッパーから得た物件の情報を豊富に掲載することで、他社との差別化を図り、メディアとしての価値を創出できる。現在、Samurai Internetは本サイトのリリースに向けて絶賛準備中だ。現在はデベロッパーに営業をかけて提携を進めているが、2か月で50社獲得するなど、反応はまずまずだ。サイトのローンチは翌月を予定。ユーザーの反応が楽しみだ。

 また、Samurai Internetでは、現在日本人の学生インターンを積極的に募集中とのことだ。是非、大学生のみなさんで海外のスタートアップに興味のある方はご連絡して頂きたい。私がMaGICに訪問したときも、拓殖大学の紺野裕也さんがインターンとして滞在していた。

 MaGICでは、今週、MaGIC Academy Symposiumを開催し、マレーシア内外から著名な起業家や投資家、専門家を招いてイベントを開催している。成功を目論むマレーシアの現地起業家に交じりながら、唯一の日本人スタートアップとして戦う三上さん。

 「とりあえず動くことが重要です。動いて、ヒトに聞いて、振り返る。振り返ったものは自分の資産にして活かす」

 行動力のある一方で、戦略は緻密に練り、アドバイスは謙虚に素直に受け入れる、とてもバランスの取れた経営者に見えた。マレーシアで起業に挑んだSamuraiはいかに化けるのかーー。マレーシアからSamuraiの雄叫びが日本に届く日も遠く無いかもしれない。

※本連載では、シンガポールを拠点に、東南アジア全域で活動するベンチャーキャピタル、IMJ Investment Partnersの現地取材を通して、ASEANスタートアップの最新情報をお届けしております。本連載、並びにIMJ Investment Partnersへのお問い合わせはこちらからお願いします。

  
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