2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年9月18日

 倹約重視が史上例を見ないような政府支出の停滞を招いている。世界中の低インフレが、好景気の時ですら低金利をもたらし、景気後退時の金利引き下げの余地を狭めている。

 政策当事者が、過剰貯蓄と世界経済の恒常的弱さをいまや「新常態」と考えている可能性が高い。

 しかし、この現実を受け入れようとしない根強い傾向が、教養のある政府関係者にすらある。

 一つには、これは利害関係者の話である。ウォールストリートは、不安定な社会では財政の規制が必要であると聞きたくない。福祉国家反対の政治家は、現状では政府支出と負債は問題ではないと聞きたくない。

 しかし同時に、世界的金余りという考え自体に対する感情的偏見があるようである。政治家や官僚は自らを、広く支持される計画の削減や、金利の引き上げなど困難な選択ができる人種とみなしたい。彼らは、我々が、困難とみられる政策が状況を悪化させるような世界にいることを認めたがらない。しかし我々はそのような世界にいるのである、と述べています。

出 典:Paul Krugman ‘A Moveable Glut’(New York Times, August 24, 2015)
http://www.nytimes.com/2015/08/24/opinion/a-moveable-glut.html?_r=0

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 上記論説で、クルーグマンは、世界経済に次から次におこる危機の原因は、世界的な金余り、過剰貯蓄であると言っています。過剰貯蓄とは、過少消費、過少投資で、金が消費や設備投資に回らず、だぶついた金が投機的に使用され、それがバブルとその崩壊を生むというのです。ケインジアンであるクルーグマンらしい分析です。

 米国の住宅バブル、南欧のバブル、新興経済のバブルとその崩壊は、クルーグマンの説明通りでしょうが、今回の世界同時株安の引き金とみられている中国経済の不調については、必ずしも当てはまらないのではないでしょうか。上海株式市場の崩壊は、昨年の株価の2.5倍の上昇というバブルがはじけたものと言えますが、世界同時株安は、中国の実体経済の失速と、中国当局が経済をうまく制御していないのではないかとの不信感、不安感が引き金になっていると思われます。中国経済の失速と中国政府の経済政策に対する不信は、すぐに解消されるとは思われず、それだけに世界経済に与える影響は大きいと考えられます。

  
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