2024年11月21日(木)

WEDGE REPORT

2015年12月1日

 英国では1995年運転開始のサイズウエルBを最後に原発の新設が止まるが、その遠因は90年に行われた電力市場の自由化だった。電力供給を行っていた中央電力庁は分割され、原子力部門は96年に民営化される。自由化した市場では将来の電気料金は誰も予測できない。巨額な投資を必要とし、減価償却のため40年以上に亘り常に運転を行う必要がある原発の建設には収益面のリスクがあると投資家は考え、自由化市場での原発の建設はなくなっていった。

民営化で激減した英国の原子力研究開発予算
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 民営化後、新会社は石炭火力の買収、米国への進出など積極経営を進めるが、英政府保有の核燃料会社BNFLに支払う米国の6倍もする再処理費用額と、低炭素電源にもかかわらず課せられた気候変動税の負担がやがて重荷になってくる。しかも、北海からの安価な天然ガスを燃料とする火力発電により卸電力価格も下落し、新会社は青息吐息になる。財務的に行き詰まった新会社を買ったのは、フランス政府が84.5%の株式を保有する仏電力公社(EDF)だった。英国の原発は2009年にEDF保有となる。

 自国設計の原発から加圧水型軽水炉型の導入に切り替えた英国BNFLは、99年に技術を持つウエスティングハウスを買収する。しかし、北海の石油・ガス生産量が輸出をするほどに増え、02年に政府は原発の新設見送りを決める。ウエスティングハウスは東芝に売却され、英国は原子力技術を失った。

中国広核集団が建設する広東省の台山原発

 英国政府は、06年になり地球温暖化対策、エネルギー安全保障上、原発の新設が必要との方針を打ち出す。第1号案件となったヒンクリーポイントでの新設のために、英政府とEDFが合意したのが、1MW時当たり92.5(1kW時18円)の固定価格での発電した電気の買い取りだった。

 発電した電気を買ってもらってもリスクは残る。工事の遅れと工費の増大だ。フィンランドで出力172万kWのオルキルオト原発工事を手掛けたアレバを見ればリスクが分かる。03年に32億ユーロ(4300億円)の予算で09年の運転開始を目指した工事は遅れ、運開予定が18年に後ろ倒しとなり、工費も85億ユーロ(1兆1500億円)に膨らんだ。アレバはEDFの支援を受け、三菱重工業にも資本参加を要請する事態に陥った。

 欧州のエネルギー政策の研究者は、「複雑で大規模工事の原発新設には、何よりも継続した工事の経験が必要」と指摘する。福島第一原発の事故以降、世界では原発新設の動きが一時中断した。そんな中で短期間の中断後すぐに工事を再開した中国だけが、継続的な工事実績を着実に積んでいる。


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