中国で稼働中の原発は29基、建設中は22基ある。16年に運開予定の世界の原発16基のうち8基は中国で建設され、17年運開予定では15基中8基だ。いま、世界の原発工事の半分は中国が行っている。工事を予定通り進められるのは、今や経験を積んでいる中国なのだ。20年には発電設備量は5000万kWを超え、日本を抜き、米国、フランスに次ぐ原発保有国になり、30年には設備量は1億5000万kWと世界一になると予想されている。
中国の原発設備は、東芝が87%の株式を保有するウエスティングハウスとアレバの技術が基になっている。10年に国際原子力機関が15カ国のメンバーからなる査察チームを中国に送り、中国の原子力安全のシステムの効果と将来の安全性に、問題なしとお墨付きを与えている。
中国1強時代の到来か
日本の原発輸出にも脅威
アレバの原発の建設コストはkW当たり6000米ドル(72万円)と言われている。100万kWの原発だと、7200億円だ。一方、ウエスティングハウスの原発を改良した中国CAP1400のコストはkW当たり3000ドル、発電コストは1kW時当たり7米セント(8.5円)と中国政府関係者は述べている。工期が予定通り、工費もアレバの半分。安全性も問題なしとなれば、英国政府が中国製を受け入れるのも無理はない。市場自由化の結果、発電設備の建設が進まない英国では、中国製でなければ、電力の安定供給が実現しないのかもしれない。
英国は自国の電力安定供給強化に、工期と工費を確約できる中国を利用しているようにも見えるが、中国も英国をショーケースにした輸出拡大を考えている。中国はパキスタンには原発輸出実績があり、アルゼンチンなどでの建設も合意しているが、さらに中国製を検討する国も出てくると期待している。「鉄道車両」と「原発設備」輸出に力を入れる中国政府は、今回の英国との合意を梃子に輸出に一層力を入れる筈だ。
日本では、原発の再稼働は遅々として進まず、新設はいつになるのか全く見えない。政府は30年に電源の20%から22%を原子力で賄うとしているが、その道筋は不透明だ。原発の工事を長々と中断すれば、いざ建て替えや新設工事を再開することになっても、アレバのように工費と工期で問題を起こすようになる可能性も高い。そうならないようにするには、継続的な工事で着実に力を付けるしかない。
停電が発生する可能性を避けるため中国企業に工事を依頼するしかないとなれば、英国と同じだ。原子力技術が衰退した英国を他山の石として、中国企業との競争をどう勝ち抜くのか、いまから考えなければ、気がつけば、海外市場どころか国内市場も中国に席巻されていることになりかねない。
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