日本人選手が犯罪行為に手を染めないのはなぜか
ロシアやケニアの陸上選手たちのドーピング問題も記憶に新しい。ドイツ公共放送ARDは、ドーピングと賄賂の蔓延を暴き、最大99%のロシア人選手が対象になると報じた。長距離王国のケニアも、12年以来、40選手以上にドーピング違反の疑いがかけられているという。
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)のディック・パウンド元委員長は、ロシア陸連が起こした騒動について、「詐欺行為が深く根付いた文化」と揶揄した。これは言わば、スポーツ以前の問題で、国民精神そのものに苦言を呈したことになる。
スペインの元陸上女子三段跳びの五輪選手で、現在は同国スポーツ上級委員会(CSD)に務めるカルロタ・カストレハナ氏は、ドーピングの背景には、「選手たちへの教育不足がある」と指摘。しかし、「国や人種の問題ではない」と、偏った報道を否定した。
「卑怯」を嫌う日本人は、このような大胆な騒動に違和感を持たずにはいられないだろう。なぜ欧米のスポーツ選手たちと比べ、日本人選手は汚れた行為が少ないのだろうか。
早稲田大学スポーツ科学学術院の原田宗彦教授は、次のように指摘した。
「日本人は、ピラミッド型社会で同質性が非常に高いこと。そして、教育的スポーツによる連帯責任システムであることも大きい。しかし、何よりも武士道の倫理観、つまり悪いことをしないのが日本人なのです」
こうした考え方が、日本においては当然のように思われるが、「個」を重視する欧米では、スポーツに限らず政治や社会生活でも、日本とは大きな隔たりが見られる。
13年9月には、鈴木大地・日本水泳連盟会長が、東京五輪招致で、日本が反ドーピング大国であることを明言。欧米メディアは、こぞって彼の発言を強調し、五輪招致の勝因になったと報じた。まるで、ドーピングをしないことのほうが驚きであるかのように。
貧困層育ちの南米やアフリカのサッカー選手たちが、フェラーリや海沿いの豪邸を手にしたとたん、本職への「燃え尽き症候群」に陥ることも知られている。日本人選手たちとの決定的な差は、「お金よりも挑戦」という精神面だろうか。
日本スポーツ界は、欧米よりもクリーンなのは間違いない。このイメージを尊重し、維持することで、スポーツ以外の分野でも、日本人は世界に誇りを示せるのではないだろうか。
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