2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年1月19日

次期大統領に望まれるのは“問題解決型”

 ブッシュ政権とオバマ政権の国防長官など民主、共和両党の政権8代に仕えたゲーツらしい、政党色にとらわれない論評です。最近の政治と今回の大統領選挙戦についての不満も滲み出ています。

 ゲーツのそれぞれの指摘の裏には具体的な事例があります。たとえば、次期大統領は堅い決意を持った者でなければならないとしていますが、これには2013年秋のオバマの対シリア介入レッドラインの失敗(化学兵器使用をレッドラインにしたにもかかわらず同年9月にそれに沿った行動を取らなかったこと)に対する批判が込められています。

 ゲーツが次期大統領に求める六つの資質(実利の政治、正直な議論、決意、問題解決の重視、自制、国のユニティー重視)はいずれも正論です。正直な政治議論が必要だとして、誇張や捻じ曲げのかかった政治議論に警告を発していますが、このことは日本の政治にも無関係ではありません。先の安保法制審議での野党による「戦争法案だ」とか「徴兵制になる」といった議論は、正直な議論に資するものではありませんでした。

 「決意」の重要性を挙げるのは、長年安全保障問題をやってきたゲーツとしては当然の指摘です。次期大統領にはイデオロギー型よりも問題解決型の指導者が良いとの主張も興味深いです。決意の重要性を強調する一方で、政治全般に亘って「自制」が必要だとするのは、ゲーツの重要なバランス感覚です。コリン・パウエルも同様でした。武力行使についてもそれは最後の手段だと念を押しています。

次期大統領にふさわしいのはヒラリー・クリントンか

 ゲーツの言う資質を満たす大統領候補は誰か、推測する他ありませんが、ゲーツの基準に沿うのは恐らくヒラリー・クリントンでしょう。国防長官時代にはクリントン国務長官と定期的な昼食協議を行う等緊密な協力関係を持っていましたし、ゲーツ回顧録でもクリントンは高く評価されています。共和党は依然としてトランプを処理できないでおり、我々さえもが心配になる程膠着状態が続いています。

 日本にとって望ましい米大統領の資質をゲーツに倣って挙げるとすれば、次のようになるでしょう。

(1)「決意」と「自制」を併せ持つひと。
(2)世界に反応するだけではなく世界観と哲学(とくに米国の役割について)を持ち行動するひと。
(3)同盟関係を重視するひと。しかも米の同盟関係には重要性の濃淡があることを理解している人。なお、対欧州にも強いひと。
(4)アジア太平洋を理解し重視するひと。とくに中国につき「競争と協力」という二つの側面があることを厳しく理解するひと。
(5)経済にも関心を持つひと。

  
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