実体経済に立ち入る前に、ややテクニカルではあるが、米国債券市場において金融市場関係者が着目している景気後退の予兆を示す動きを、3つほど指摘しておこう。
期待インフレ率の低下、長短金利差の縮小、ジャンク債の売り圧力
まずは期待インフレ率の低下である。物価動向を把握するには、現実の物価を基にした指数で測る方法と、債券市場が示す期待インフレ率を見る方法の2つがある。米国の場合、前者はコアPCEデフレータ(個人消費支出指数)で、後者は国債と物価連動債の利回り格差(ブレーク・イーブン・レート)で見るのが通例だ。
足許のコアPCEデフレータはここ約3年間、年率1.3%前後で推移しているが、後者の期待インフレ率は昨年6月の1.7%から一貫して低下している。特に昨年12月に利上げが発表されて以降、さらに低下スピードが加速しており、2月10日には0.95%にまで低下した。それは債券市場が、米国も経済の失速で日欧と同様にデフレに悩まされ始めるのではないか、と危惧し始めている証左である。
2番目は、短期金利と長期金利の差(イールド・スプレッド)である。一般的に長期金利の方が短期金利より高いのが普通だが、この差が縮まってくる(即ち、長期金利が短期金利に接近する)と景気後退が近い証拠、という侮れない市場経験則がある。
現在の米国債の利回りは2年債が0.75%で10年債は1.72%と、その差は0.97%と過去8年間で最少となっている。2年前の2.5%、昨年6月の1.7%といった水準から比べても着実にその差が縮小していることがわかる。機械的に判断することはできないが、FRBが景気拡大中と見て利上げをする一方、債券市場が逆向きの判断をしていることは無視できない事象である。
そして3番目はジャンク債(投機的格付け社債)の利回り急上昇である。米国市場では急速な原油安でシェールガス開発企業を中心に社債が売り込まれ、その利回りは米国債利回りを大幅に上回る水準となった。昨年秋以降、それがエネルギー産業だけでなく他のセクターにも飛び火してジャンク債全般が売り圧力に押されている。米国市場では、それもまた景気後退の確率上昇を示すインディケーションとして捉えられている。
以上、米国経済がリセッション入りする可能性を示す3つの市場動向を示してきたが、実体経済の指標にも気になる点が幾つか挙げられる。