2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年3月4日

 中国はかかるリスクを冒すか。政治的目的を達成するため短期決戦を利用するのは習近平が初めてではない。73年の第四次中東戦争の際のサダトの例がある。中国軍は東シナ海で迅速に行動し、迅速にそれを終結するだろう。国際調停が叫ばれることになるが、恐らく中国の侵略は既成事実になり状況は中国に有利になるだろう。

 東シナ海問題は、石油資源や日本の領土主権といったことを超えた重要性を持つ。最重要のことは、日本の対米信頼が揺らぐことである。中国にとって、アジアにおける米の最重要同盟国を揺るがすことは石油を掘り当てる以上に価値あることである。

出典:Arthur Herman & Lewis Libby,‘Beijing’s Next Gambit, the East China Sea’(Wall Street Journal, January 25, 2016)
http://www.wsj.com/articles/beijings-next-gambit-the-east-china-sea-1453745380

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中国対抗には日米安保強化を

 この論説の想定は、有り得るハード・シナリオです。これを含めあらゆるシナリオへの対応を良く検討しておかねばなりません。かつてサッチャーは「こと安全保障に関する限り自分は保守的な方に間違えたい」旨を述べています。至言です。

 指摘されている中国の思考は可能性のあることです。中国の軍事力が近代化、拡大し、その使い方がおよそ国際ルールに沿っておらず、周辺国に多大の安全保障脅威を与える今の状況が早期に変わる可能性は残念ながら当面見当たりません。これは中国の安全保障についての「ニュー・ノーマル(新常態)」かもしれません。それを前提に世界はこれに対処していかねばなりません。中国の振る舞いを変える圧力を継続することも当然です。

 記事は、日本の対米信頼の重要性を強調しています。これはその通りです。他方、記事は日中衝突が起きれば米は日本に自制を求めるだろうと中国は考えていよう、と述べていますが、中国指導部が日米同盟をそれ程軽く考えていることはないのではないでしょうか。ただし、米国において「巻き込まれ論」があることには関心を持っているでしょう。尖閣が日米安保条約第五条の対象であるとの米大統領の宣言は中国指導部に事実として重く理解されていると思われます(もしそうでなければ全く非合理だと言う他ありません)。しかし、それが本当に内外に信頼性を持つようにするためには、日米関係をきちっと運営し、日米安保関係を強化していく不断の努力が必要とされます。

  
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