2024年11月22日(金)

サムライ弁護士の一刀両断

2016年3月4日

「どの国の裁判所で解決するか」国際裁判管轄

 冒頭でも述べたが、国際裁判管轄とは、ある紛争を、どの国の裁判所で解決するか、という問題である。多くの場合、それぞれの国の法律に、国際裁判管轄に関する規定が設けられており、日本では民事訴訟法3条の2以降がこれにあたる。この民事訴訟法3条の2以降は、11年の民事訴訟法改正で盛り込まれた条項である。

 改正以前はどのように解決されていたかというと、これは「条理」によって解決されていた。条理とは、平たく言えば、社会通念や公序良俗、物事の道理などである。もっとも、全くのフリーハンドで裁判官が判断するわけではなく、過去の判例や類似の規定、外国の裁判例などを駆使して解決することになる。

 管轄合意には、「ある国の裁判所に訴えを提起できること」を(単純に)規定する管轄合意と、「ある国の裁判所にのみ訴えを提起できること」を規定する専属的管轄合意がある。後者の専属的管轄合意は、「ある国の裁判所に訴えを提起できること」+「他の国の裁判所に訴えを提起できないこと」の合意と分析できる。以下では、便宜上、前者を「単純管轄合意」、後者を「排除管轄合意」、そして両者を併せて専属的管轄合意と呼ぶことにする。

「一定の法律関係に基づく訴え」

 さて、民事訴訟法3条の7第1項によれば、当事者は、合意によって、いずれの国の裁判所に訴えを提起できるか、を定めることができる(つまり、国際裁判管轄について合意できる)。ただし、こうした合意は「一定の法律関係に基づく訴え」に関して、「書面」でしなければならない(同条第2項)。

 民事訴訟法3条の7第1項は、あくまで「いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるか」と規定するのみであり、「いずれの国の裁判所に訴えを提起することができないか」には言及していない。つまり、単純管轄合意ができることだけを定めた規定のようにも見える。

 しかし、民事訴訟法第3条の7第4項では、「外国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意」(つまり専属的管轄合意)が無効となる場合について言及している。そうすると、排除管轄合意を含む専属的管轄合意を締結することも、民事訴訟法は許容しているようである。そこで、このような専属的管轄合意も、先の「一定の法律関係に基づく訴え」に関して、「書面」でしなければならない旨の要件を満たし、かつ訴えを提起できると定められた国の裁判所が法律上、または事実上裁判ができないような事情がない限り(民事訴訟法第3条の7第4項)、有効と考えられる。

 ところで、「一定の法律関係に基づく訴え」とは、どういう意味なのだろうか。平たく言えば、当事者間での紛争について、一定の範囲に限定しなければならないという趣旨だが、それ以上に明確に定義することは、なかなか難しい。ある訴えが「一定の法律関係に基づく訴え」なのかどうかは、具体的な事件を見たうえで、当事者の公平やどのような紛争を対象とするかの当事者が予測できるかどうか、といった事情を考慮して、判断されることになる。

 一般的には、「当事者間の全ての紛争」を対象とする合意は、当事者間での紛争に対する限定がないので、「一定の法律関係に基づ」いてはいないと考えられている。一方で、「本契約に関連して生じた紛争」を対象とする合意は、一般的には「一定の法律関係に基づ」いていると考えられている。

 最後に、改めて注意喚起しておきたいが、ここで説明した民事訴訟法の条項は、11年改正で盛り込まれたものであり、それ以前は条理によって解決されていた、ということである。


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