論点は、次の3点に集約できる。
1つ目は、法改正前に結ばれた合意に対して、民事訴訟法第3条の7第2項が適用されるのか。
2つ目は、民事訴訟法第3条の7第2項が適用されないとしても、条理上、国際裁判管轄に関する合意については、一定の法律関係に限定しなければならないのか。
3つ目は、条理上、一定の法律関係に限定しなければならないとしても、MDSAによって生じた紛争については、予測可能性があるとして、例外的に合意が有効なのか。
中間判決での裁判所の判断
中間判決での裁判所の判断は次のとおりである。
1つ目の論点については、民事訴訟法第3条の7第2項を法改正前の合意に適用することは、法的安定性を害するので、認められないと判断した。つまり、被告の主張を採用した。
2つ目の論点については、国内での裁判管轄に関する合意では、法改正以前から「一定の法律関係に基づく訴え」に関するものである必要があり、この趣旨は国際裁判管轄に関する合意でも同様だと指摘して、条理上は「一定の法律関係に基づく訴え」に関するものでなければならないと判断した。したがって、この点は原告の主張を採用した。
3つ目の論点については、合意を今回の紛争に限って有効とすれば、逆にそれこそが当事者の予測可能性を害する。それゆえ、あくまで合意は全体として無効であると判断した。したがって、この点においても原告の主張を採用した。民事訴訟法の規定は適用できない、としながら、結局、「一定の法律関係に基づく訴え」という民事訴訟法と同じ規律が当てはまる、と結論付けたわけである。
今回の訴えは、合意が無効であれば、日本で裁判を起こすことが可能な訴えであった。中間判決に対し、独立して争う方法はないため、日本で裁判が続けられることが決定したのである。