原告と被告の主張の違い
さて、改めて島野製作所とアップル社の事件に戻ってみたい。島野製作所とアップル社は、部品を供給するに際し、09年にMaster Development and Supply Agreement(「MDSA」)を締結した。MDSAには契約書の一部を構成するいくつかの附属条項が存在しており、そのうちの1つの条項において、当事者間の紛争解決手段が定められた。
当該条項によると、次のように紛争は解決される。
(1) 両社が1名ずつ上級管理職を選出し話合いを行う。
(2) 苦情を申し立てから60日経過しても、(1)で解決できない場合、カリフォルニア州サンタクララ郡又はサンフランシスコ郡の調停での解決を求める。
(3) 調停開始後60日以内に解決できない場合、カリフォルニア州サンタクララ郡の州又は連邦裁判所で訴訟を提起できる。
この(3)は、専属的裁判管轄を定めたものと明記されている。また、この条項全体は、他の書面で合意しない限り、紛争がMDSAから生じた場合や、関係する場合かどうかに関わらず、適用されると規定された。
被告の主張の骨子は、明快である。
(a) MDSAを締結したのは11年の改正以前であり、民事訴訟法第3条の7第2項は適用がない。
(b) 条理あるいは民事訴訟法上、仮に合意を「一定の法律関係に限定する」必要があっても、これは当事者の予測可能性を担保するためのものである。今回の訴訟は、国際裁判管轄が定められたMDSAに基づき生じたもので、契約書とは無関係に起きた訴訟ではないので、予測可能性はあり、この限りで有効である。
一方、原告は、次のように反論した。
(a) 民事訴訟法第3条の7第2項は、新たに何かを作った規定ではなく、元々存在していたルールを明文化したに過ぎないものである。したがって、改正前の合意であっても適用されるものである。
(b) 仮に、適用されないとしても、条理上、国際裁判管轄に関する合意は、一定の法律関係に限定しなければ無効である。
(c) 今回の合意は、一定の法律関係に限定せず、当事者間の全ての紛争に及ぶものだから無効である。