2024年4月18日(木)

サムライ弁護士の一刀両断

2016年3月4日

中間判決後の実務への影響

 さて、中間判決は、重要な2つの判断を行った。1つは、11年の民事訴訟法改正前の国際裁判管轄に関する合意であっても、条理上、現行条文と同様の「一定の法律関係に基づく訴え」に関するものでなければならないと判断したことである。

 もう1つは、「紛争がMDSAによるもの、あるいは関係するものかどうかに関わらず」と定めたことを問題視し、「一定の法律関係に基づく訴え」に関するものではないと判断したことである。

 契約書などでは、「本契約に関連して甲乙間で生じた紛争」について定めることがごく一般的である。もし、アップル社が、「紛争がMDSAによるものあるいは関係するものかどうかに関わらず」ではなく、「紛争がMDSAによるものあるいは関係する場合には」と限定を付していれば、「一定の法律関係に基づく訴え」だと判断された可能性が高い。他に有効な抗弁がなければ、国際裁判管轄の合意は、おそらく有効であったであろう。カリフォルニア州で裁判を起こさなければならないので、東京地方裁判所に提起された今回の訴訟は却下されることになる。しかし、アップル社は、いわば「欲張って」、そうした限定をせずに規定したことにより、かえって足元をすくわれる結果となってしまったのである。

 アップル社がこれまで締結してきた合意には、同じような条項が含まれている可能性が高い。そうした合意全てが、日本での裁判を排除できないということになれば、アップル社にとっての影響は多大なものとなるであろう。アップル社と類似の合意を締結してきたグローバル企業は、自社の国際裁判管轄に関する合意が、日本での裁判を排除できるように規定されているか、一度確認してみる必要があるかもしれない。また、今後の合意締結においては、今回の中間判決を受けて、見直す必要があるだろう。

 一方、日本で裁判ができないように規定されている国際裁判管轄条項を見て、裁判を起こすことをあきらめたような日本の企業や個人は、今一度当該条項を確認してみてもよいかもしれない。「一定の法律関係に基づく訴え」でないものであれば、今回の中間判決のように、少なくとも日本の民事訴訟法ではその効力を排除できる可能性がある。

 さらに進んで考えると、自分たちに不利な国際裁判管轄条項が、今回のように無限定に定められていた場合、あえて契約交渉時に放置するのも、一手段と考えられる。これが「一定の法律関係に基づ」かないとされれば、無効とできるからである。ただし、これが失敗すれば、きわめて広範な範囲の紛争が、全て日本で解決できなくなるリスクもあり、慎重に対応する必要があるだろう。

 なお、本稿は、一切の法的アドバイスを含むものではなく、具体的事件に当たっては、必ず弁護士等法律専門家のアドバイスを求めていただきたい。
 

  
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