「すべての物質は毒である。毒でない物質は存在しない。ある物質が毒となるか薬となるかは用いる量による」
毒物学の父、あるいは医療化学者の父、はたまた錬金術師とも呼ばれたパラケルスス(1493-1541)の言葉である。
船山信次著『毒と薬の世界史ーソクラテス、錬金術、ドーピング 』(中公新書)
ハザードとリスクの話をするとき、私は必ず、彼の唱えた「毒か薬かは量による」という言葉を引き合いに出す。
私たちは日常生活で往々にして、ある物質が「毒か、薬か」と白黒つけたがる。しかしいうまでもなく、その物質の量はもとより、用い方や用いる人によっても、ある物質が毒になるか薬になるかは変わってくる。
要するに「個々の物質や個々の技術を毒とするか薬とするかは、我々の用い方次第」というわけで、パラケルススのこの賢察は、現代の科学技術の光と影を論ずるうえでも土台となるものである。
ちなみに、江戸時代の儒学者・本草学者、貝原益軒(1630-1714)も、ベストセラーとなった著作『養生訓』(1713)において同様の考え方を説いている。