2024年4月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年5月24日

ソフトパワーで後れをとる中国

 取引的影響力に関して、中国の国有企業と政府の結びつきこそ強いが、内部には多くの分裂があり、中央政府の統合的な戦略実行の妨げとなっている。構造的影響力に関しては、中国には大きなポテンシャルがある。しかし、ソフトパワーに関して、中国はアメリカに大きく後れを取っている。中国の権威主義的、国家資本主義的な発展モデルは周辺国にとって魅力的ではない。中国の国境を越えてアピールできるような「北京コンセンサス」や「チャイナ・ドリーム」は存在しない。

 このように、アメリカや日本の政策決定者たちは、中国が排他的な経済圏を作るというような心配をする必要はない。一帯一路イニシアティブによって、中国の企業は外国企業よりも多くの利益を享受し、中国の影響力は高まるだろう。しかし、アメリカやそのパートナーたちにとって最も良いのは、地域の経済発展に参加し、一帯一路イニシアティブの利益を享受することである。

出典:William W. Grimes, ‘The Belt & Road Initiative as Power Resource: Lessons from Japan’(Asan Forum, April 15, 2016)
http://www.theasanforum.org/the-belt-road-initiative-as-power-resource-lessons-from-japan/

“中国の夢”実現に突き進む可能性も

 中期的に見れば、筆者のロジックは妥当なものでしょう。しかし、日米が一帯一路イニシアティブに積極的に参加すべしという結論には留保を要します。カギとなる問題は、中国の指導者と社会が、自分たちのイニシアティブをどう見ているかという点にあります。中国の政局も絡み、一帯一路とAIIBは、習近平外交の「成果」ということになっています。それは、中国中心の国際秩序をつくる「中国の夢」の第一歩だと言いかねないほどのものです。中国の政局は流動的であり、政局いかんで、この位置づけも変わり得ます。しかし、この方向で中国が突き進む可能性はあり、国際社会との軋轢は生じ得ます。中国の国際派は、目下、内外の矛盾を糊塗するのに大忙しですが、現実が筆者の見通し通りにならない可能性には注意しておく必要があります。

 同時に、中国のイニシアティブの持つ「魅力」も否定できません。やはりニーズはありますし、インフラ整備は経済の発展に積極的意味を持ちます。関心国は増えているという現実もしっかりと見ておく必要があります。そうであるならば、中国のイニシアティブを換骨奪胎させ、名実ともに既存の国際経済秩序の中の補完的な存在にする努力には意味があります。中国も表面的にはそう言い始めています。ここでも日米のすり合わせが決定的に重要となります。そういう方向で日米の政策を動かす準備をする時期に来たように思われます。

  
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