英国の老貴婦人
緩い下り坂の途中にフランス・スペインの国境線があった。同じEUなので単に境界の印があるだけ。あっけなくスペインへ。記念写真を撮っていた70歳くらいの英国の婦人とおしゃべりしながら歩くことになった。
彼女は長身で背筋をピシッと伸ばして歩き方がカッコイイ。ハイキングや乗馬が趣味というが流石に身のこなしがスポーツウーマン的である。服装も上品であり見るからに英国の上流階級の貴婦人である。しばしば英国人は話し方で出自が分かるというが、彼女のアクセントは正統派クイーンズ・イングリッシュではないだろうか。
会話がウイットや皮肉に富んでいる。旦那はなぜ一緒に来ないのか尋ねると「余りにも長くシティーで仕事をしてきたので椅子と机がないと生きられなくなってしまったの」という。長年銀行や保険の会社を経営したり顧問をしたりしていたが、現在は親族が関係する財団の理事長として学校経営に関わっているという。親族の依頼があるので仕事から引退できないという事情もあるが旦那は“椅子と机が好き”なので放っているという。
私が日本人と知って「夫が仕事の関係で日本の大手銀行の立派な紳士達を自宅に招いて晩餐会をしたことが何回もありましたの。本当に日本人バンカーは紳士的ですわ。アペリティフ(食前酒)を楽しんでいる時から晩餐の後のディジェスティフ(食後酒)まで本当に静かに慎ましく礼儀正しく(quietly,modestly and politely)過ごしていましたわ。ちょっと静かすぎるくらい口数が少なかったかしら(very quiet and few words)」と皮肉交じりのコメント。要するに日本人の銀行員は英語が苦手なのでせっかくの晩餐でおもてなししてもダンマリを決め込んで礼儀正しくニコニコ微笑んでいるだけであると優雅かつ上品にこき下ろしているのである。