不思議な事に英国はこの条約に入っていない。したがって、空路はもちろん、列車でパリやブリュッセルからロンドンに入る場合、パスポートコントロールがある。英国はEUに参加していながらシェンゲン条約にもユーロゾーンにも入っていなかったのだ。下世話に言えば同棲中でいつでもお別れできる状態であったともいえる。逆にEUにも入っておらず、通貨ユーロとも無縁のノルウェーは、きちんとシェンゲン条約を批准している。この辺の機微はジャポニカにはわからない。
シェンゲン村のあるルクセンブルグには数限りなく行ったことがあるが、シェンゲン村も訪ねたこともある。シェンゲン村に行ったことのあるジャポニカは少ない。新聞記者も行かずに記事にするから読者に伝わらないのだろう。
シェンゲン村は、右に石を投げるとフランスの村、左に空き缶を蹴るとドイツ領という場所。国境なんてやめよういう強い意志が見える場所だ。
甘いモーゼルワイン
甘いモーゼルワインがとれる地域で風光明媚なところ。同じ設えの場所がスイスにもある。フランスとドイツがぶつかる場所にスイスが街を形成している。一般にバーゼルと言うが、バールと発音することも多い。かつては入国に厳しいスイスであったが、このシェンゲン条約を批准したお陰で、すいすい出入りできるようなった。パスポートもなくスイスに入国できてしまうのを知ると驚く人も多い。ジャポニカは旅情が失われると嘆くかも知れないが。
たとえば、南フランスの最後の駅はマントンガラバンというが、そこからサンレモに向かって一駅でイタリアだ。あたかも井の頭線の神泉駅から乗って、渋谷に着く感じだが、すべてが違う。フランスの珈琲はおいしいが、さらにおいしくなる。映画「ジャッカルの日」では、逆にイタリア側からフランスに入国したが、車なので厳重な検問があったのを覚えているだろう。大陸ではジャポニカにとっては、感動すらあるこの国境越えが消えてしまった。おかげで、一旦EUに入った流民はどこの国へも流れてゆける状態なので、今回の大量移民騒動で、欧州は騒がしくなっているのだ。