ソフトバンクによる英国の半導体企業・ARMの買収が話題となった。孫正義CEOの決断を称賛する記事が溢れているが、半導体業界に身を置いている者として、この買収劇にはかなりの疑問を感じている。
ARMはスマートフォンの頭脳にあたるCPUの設計に特化した企業で、製造は行わず、技術指導料、ライセンスフィーで儲ける仕組みだ。スマホのCPUとしては圧倒的なシェアを誇っているが、2015年の売上高は1791億円、税引後利益は578億円と規模は大きくない。買収額3・3兆円を利益で割ると、単純計算で60年ほど回収に時間を要する。
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「これからIoT(あらゆるものをインターネットに繋ぐ構想)時代を迎え、ARMはその核となるのだから、その単純計算はナンセンスだ」という声が聞こえてきそうだが、ここに最大の疑問がある。
IoTという言葉を聞くと、10年以上前に流行し、特に中身がないまま死語となった「ユビキタス」を思い出す。
IoTという言葉を具体的な製品に落としこむと、例えば自動運転車が挙げられると思うが、現在、自動車業界にARMの半導体はほとんど入り込めていないし、今後食い込むことも容易ではない。自動車は人の命を預かるものなので、設計だけに特化した企業を使いにくい面がある。