筆者は大統領執務室のいわば門番をしていたわけで、ビル・クリントン大統領の女性関係を垣間見てきた。実習生だったモニカ・ルインスキーがなんとか大統領に接触しようと、用もなくやってくるのを何度も追い払ったり、大統領の体液らしきものと口紅がついたタオルをひそかに処分したりしたエピソードは生々しい。
例えば、ホワイト・ハウスのマップ・ルームと呼ばれる部屋に、ノックをせずに入った時の驚きの発見について次のように記している。
There before us was E! Network host Eleanor Mondale―former vice predient Walter Mondale's daughter―and President Clinton in a compromising position, that is, making out on the Map Room table. (p.112)
「わたしたちの前にいたのは、(娯楽専門のテレビチャネルである)E!の女性司会者エレノア・モンデールだった。あの元副大統領ウォルター・モンデールの娘だ。そして、クリント大統領がいた。はしたない格好で、つまり、マップ・ルームのテーブルの上でよろしくやっていたのだった」
この種のきわどい話がいくつか出てくるものの、筆者の書きぶりはあくまでも冷静だ。シークレット・サービスの一員として場合によっては、自分の命を犠牲にして大統領を守るつもりでいるのに、大統領の無分別な振る舞いに怒りを募らせる。
シークレット・サービスへの不信感
さらに、ビル・クリントン大統領とルインスキーの不倫スキャンダルが、スター特別検察官による捜査対象になったとき、筆者は捜査当局とシークレット・サービスとの間の板挟みになり苦労した経験も詳しく書き記している。
職務中に知りえた秘密について捜査官にも話してはならないと迫るシークレット・サービスの上官たち。一方で、証言を渋る筆者に対し、捜査官たちは捜査妨害で逮捕するとまで脅しをかけてくる。大統領のためにまじめに働いてきたのに、どうしてこんな目にあうのかと、クリントン政権に対する怒りは増すばかりだ。
筆者は同時に、自分を守ってくれない、シークレット・サービスという組織に対する不信も募らせる。そして、2001年9月にアメリカ同時多発テロが起き、筆者のキャリアにも転機が訪れる。テロ防止のためアメリカが導入した航空保安官に2003年に転職したのだ。シークレット・サービスという組織に嫌気がさしていたのは筆者だけではなかったという。シークレット・サービスから大量に人材が流出した次のような笑えない現実も記す。
By January 2003 the Secret Service had lost more than three hundred officers. At one point, three-quarters of all air marshals, from bottom and especially to the top, were former Secret Service personnel. The moral: Don't bluff. Don't arrogantly tell your men and women, "If you don't like it, quit." They insulted us and we did quit in droves. So many personnel went online to the FAMS employment application website while on duty at UD or at the training center, the Secret Service director had the IT guys for JJRTC block both the Federal Aviation Administraion's and the Transportation Security Administration's websites! (p.207)
「シークレット・サービスでは2003年1月までに、現場の職員が300人以上も辞めていった。一時、下から特に上まで、すべての航空保安官の4分の3はシークレット・サービスの出身者だった。これはひとつの教訓になる。から威張りしてはいけない。職員にむかって偉そうに『嫌なら辞めろ』と言ってはいけないのだ。我々は侮辱されたから群れをなしてシークレット・サービスを辞めた。多くの職員が勤務中にネットでFAMS(連邦航空保安局)のリクルートサイトにアクセスした。制服警備に携わっている時や、研修センターにいるときにだ。シークレット・サービスの長官は、研修センター(JJRTC)のIT技術者たちに命じ、連邦航空庁と運輸保安庁のウエブサイトへのアクセスをブロックさせたくらいだ」