2024年7月15日(月)

サムライ弁護士の一刀両断

2016年10月18日

ビッグデータに関わる著作権的保護

 話をビッグデータに移そう。著作権法では、データベースを「論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」と定義している(2条1項10号の3)。電子計算機とは、いわゆるコンピュータのことである。こうしたデータベースのうち、「その情報の選択または体系的な構成によって創作性を有するもの」については、著作物として保護される(12条の2第1項)。

 これを整理すると、ある情報が、著作権法のデータベースに該当し、かつそれが著作物として保護されるためには、次の3つの要件が必要となる。

 ① 論文、数値、図形その他の情報の集合物であること(情報の集合物)
 ② そうした情報がコンピュータで検索できるよう体系的に構成されていること(体系的構成)
 ③ 情報の選択又は体系的構成が創作性を有すること(創作性)

 ビッグデータは、その定義のとおり、沢山の多様なデータの集合物である。したがって、必然的に①要件は満たしていると言えそうである。

 一方、情報の体系的構成やその創作性については、幾つかの問題が生じる。

 まず、ビッグデータにおいて、収集・蓄積されている生のデータそのものは、体系的な構成を経ていないため、データベースではない。また、情報の集合体を無作為にただ蓄積しているだけでは、それは体系的構成とは言えないであろう。収集・蓄積されるデータについて、検索可能なように体系的構成を施す必要があり、その全体がデータベースとなるのである(②要件)。

 その上で、その体系的構成や、情報の取捨選択は、創作性を有するものでなければならない(③要件)。この創作性の要件が、データベースの著作物において、大きな障害となることが多い。データベースを体系的に構成する際、ごく一般的なテーブル(表の内容)やフィールド(氏名や電話番号といった検索性を持たせるための要素)を用いたような場合、それは創作性を有するとは言えない可能性が高い。どのような場合に創作性があるといえるか一概に説明することは非常に難しいが、例えば氏名、電話番号、居住地域、といった要素でデータベースを構成しても、その要素がごくありふれているため、創作性を肯定することは難しいだろう。

 過去の裁判例において、自動車整備業者が自動車検査証作成のために、自動車の情報を、型番号やメーカー、形式など17項目のデータ項目に分類整理したデータベースについて、創作性が否定されている(東京地方裁判所平成13年5月25日中間判決)。一方、他のデータベースでは用いないような特徴的な要素を用いてデータベースを構成すれば、創作性は認められる可能性がある。かつて、タウンページデータベースの職業分類体系について創作性が争われた事件において(東京地方裁判所平成12年3月17日判決)、裁判所は、当該データベースに創作性を認めている。

 なお、米国著作権法でも著作物としての保護には、「originality」という創作性類似の要件が求められる。タウンページデータベースのように、電話帳のoriginalityが争われた事件において(Feist Publications, Inc. v. Rural Telephone Service Co., Inc., 499 U.S. 340 (1991))、名前や電話番号、地域などで分類した電話帳についてoriginalityが否定されている。

 ビッグデータの場合、沢山の多様な情報を取り扱うことになる。そのビッグデータが、ある特定の利用目的のみに利用されているような場合、ビッグデータの体系的構成や情報の取捨選択も、比較的特徴的なものになる傾向があるだろう。その結果、体系的構成や情報の取捨選択に創作性が認められる可能性が高まるのではないだろうか。

 その一方で、様々な分析に汎用可能性を持たせたビッグデータも存在するであろうが、その場合、汎用可能性を意識する分、テーブルやフィールドの内容が一般的なものになる傾向が伺える。その結果、体系的構成や情報の取捨選択に創作性を認めにくい、という事態が生じ得ると思われる。

 最後に、最も難しい問題として、AIが情報の取捨選択や体系的構成を行っている場合が挙げられる。現行の著作権制度の創作の主体は、これまで人間であることを前提としてきた。したがって、AIやコンピュータが創作の主体となるような著作物を、現行の著作権法が認めているのか、不透明である。このAI創作物の問題は、主としてAIによる音楽などの創作物で議論されることが多く、現在でも決着がついていない。


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