原点回帰のトランプ
トランプ候補は、米大統領選挙はいかさまであり不正投票が行われていると主張しています。クリントン陣営が投票する資格のない不法移民を有権者登録させて選挙に行かせていると言うのです。
トランプ候補が共和党候補指名争いを勝ち抜くことができたのは、一貫して反エスタブリッシュメント(既存の支配層)及び反インサイダー(ワシントンの権力者)の立場をとってきたからです。ところが、本選が最終盤に入ると女性問題が浮上し、同候補はその対策に追われ本来の反エスタブリッシュメント並びに反インサイダーのメッセージ性が低下していました。
そのような状況に陥ったトランプ候補は原点に回帰して、大統領選挙自体が八百長であり、その制度を操作しているのがエスタブリッシュメントでありワシントンにいるインサイダーであるというメッセージを発信してきたのです。第3回テレビ討論会の翌日に行われた中西部オハイオ州での集会では、不公平な選挙結果が出た場合、法的措置の可能性を示唆しました。
責任のすり替え
各種世論調査によれば、クリントン候補は激戦州でかなり有利な戦いを展開しています。その結果、1964年以来オハイオ州を制した候補が大統領になると言われていますが、同候補はたとえ同州を落としても東部ペンシルべニア州、南部フロリダ州及びノースカロライナ州で勝利を収めれば、選挙人の過半数270を確保できます。
その反面、トランプ候補は極めて厳しい状況に追い込まれています。2012年米大統領選挙においてミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事が獲得した選挙人206をベースにしますと、同候補は選挙人270を達成するにはオハイオ州とフロリダ州に勝ち、ノースカロライナ州及び西部アリゾナ州を守り、それに加えて同年にオバマ大統領が勝利した州を奪還する必要性があるのです。
上のような現実をトランプ候補はどのように捉えているのでしょうか。心理学的視点で述べますと、人は行動の結果や事象の原因を解釈する場合、「性格的特性」といった内的特性要因ないし「状況」や「環境」といった外的状況要因に帰するのです。この理論は帰属理論と呼ばれています。
トランプ候補は、自身のコミュニケーション行動により選挙情勢が不利になったという現実を、女性蔑視、障害者に対するあざけり並びに少数民族排除の思考様式と性格に求めるのではなく、選挙制度に帰しているのです。即ち、内的特性要因ではなく、外的状況要因に帰していると言えるのです。