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ライフ

2016年11月29日

日本の魅力

 これほどまでに、モクタン氏を引き付ける『日本の魅力』とは何なのか。

 「日本は科学技術力も素晴らしいですが、本当に魅力を感じるのは日本の文化です」

 「ブラジルでは西洋の文化が色濃く反映されています。西洋では、裁く習慣が強く、善悪をはっきりと区別する傾向があります。ただ善か悪かの判断はとても難しい面もあります。一方、東洋の思想では、受け入れる文化がある。『光があるから影がある』といった、互いを補う考えが根底にあり新鮮でおもしろく感じます」

 また、日本各地には数々の昔話や伝説が形を変えて存在している。それらの話には奥深い教訓や象徴が散りばめられていることも魅力のひとつだという。

 「浦島太郎の話では約束を破って玉手箱を開けた後、老人になってしまう話が一般的ですが、詳しく調べてみると、鶴になる話もあります。『鶴』と『亀』は永遠の命を象徴しています」

 「なぜ鶴になったのか、竜宮城という日常とは異なる世界を体験したことで視野が増えた。つまり空を飛べる鶴は視野が広くなったことも象徴しているのでは」と続ける。ブラジルから異国の地「日本」に来たことで視野が広がったモクタン氏ならではの解釈を述べた。

 一方で、核家族化が進む中、祖父から孫へ語り継がれてきた各地の昔話が途絶えてしまっていると、モクタン氏は警鐘を鳴らす。

 「また日本には素晴らしい伝統工芸もたくさんあります。例えば、飴細工もそのひとつだと感じていますが、見かける機会はほとんどありません」

 筆者自身が、はじめて飴細工に触れたのは30年近く前。地元のお祭りの屋台で『恐竜』の形をした飴を作ってもらった記憶がある。器用な手さばきで作られていくのを間近で見て感激したことを思い出した。ただ、それ以降は、地元のお祭りで見かけることはなかった。

 「これらの文化を時代の流れだからといって、諦めてしまうのはあまりにも、もったいない」。かつて、ブラジルに各地の風景を描く画家がいた。今では、それらの絵は当時のブラジルを知る貴重な資料として存在する。

日本の飴細工職人を題材にした漫画「語り細工」

 「将来的には、失われつつある日本の文化を漫画で保存し、日本人をはじめ、世界の人々に向けても発信していきたい」。モクタン氏は、日本の飴細工職人を題材にした漫画『語り細工』や昔話を題材にした漫画なども自費で出版している。

 日本に拠点を移してから10年。ときには、部屋を借りることもままならない外国人ならではの苦労も味わった。華やかだと思っていた漫画家の世界も現実は違っていた。それでも苦しい時こそ笑顔を絶やさない 。

 「漫画には国籍を問わず幅広い世代の人が親しめる力がある」

 「漫画を通じて、人間にとっての“本当に大切なもの”を考えさせるヒントのようなものを少しでも多くの人に伝えていけたら幸せです」とモクタン氏は表情をなごませる。

 自分の国のことは、いつしかそこにあるのが当たり前になる。本当に魅力的なものであっても、気づかなかったり、忘れたりしてしまうもの。外国で育ったモクタン氏だからこそ、異なる視点で気づく日本の魅力がそこにはある。モクタン氏の今後の活躍を祈るとともに、改めて自国の文化を見つめ直したい。

  
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