AIはシンギュラリティの夢を見るか?

2017年1月20日

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トランプの移民政策がAIを加速する

 トランプが選挙戦を通じて最もこだわってきたのが移民政策だ。企業にアメリカ人の雇用を優先させるために、不法移民はもちろん、合法的であってもあらゆる手段を用いて移民を排斥しようとしている。トランプの『移民政策の3つの基本方針』は「メキシコに壁の金を支払わせる」「合衆国の法律と憲法を守る」「アメリカ人労働者の雇用を優先する」というものだ(リンク)

 メキシコとの国境に壁を築き、徹底的な管理強化によって不法移民を排除するだけでなく、制度の改正によって、新たな合法的な移民や外国人の就労者も大幅に抑制するという。そして「アメリカ人労働者の雇用を優先する」ために、例えば企業が外国人労働者の雇用のためにグリーンカード(永住権)や各種就労ビザの発行を申請するには、その前に国内の失業者プールから雇用しなければならないと記されている。どのような条件を満たせば発行されるのかは不明だが、グリーンカードや就労ビザの発行が大幅に制限されることは間違いないだろう。さらにアメリカでの就職を目指す外国人の学生などに、インターンシップ(研修)のために発行されているJ-1ビザを廃止して、国内の若者のためのジョブプログラムに変更するとしている。

 また、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグを名指しで「彼の個人的な上院議員マルコ・ルビオがH-1Bを3倍にする法案を提出して、女性と非白人の人々を犠牲にしようとしている」と批判している。H-1Bは企業派遣の駐在者などが米国内で就労できるように発行されるもので、非移民就労ビザや専門職就労ビザなどと呼ばれている。トランプはIT分野の雇用の多くが、H-1Bを取得した外国人労働者によって奪われていると主張している。そしてH-1Bの基準賃金を引き上げることによって、企業は安い賃金で外国人労働者を雇うことができなくなり、アメリカ人の雇用が拡大するとしている。

 さらにトランプは、民間企業にアメリカ回帰を迫る発言を続けている。すでにフォードは、メキシコに工場を建設する計画を撤回している。トランプは1月9日に、ツイッターに「ハリウッドで最も過大評価されている女優の1人であるメリル・ストリーブが、私を知らないにもかかわらず、昨夜ゴールデングローブで私を攻撃した」と書き込んだ後「ついに実現する。フィアット・クライスラーはたった今、ミシガン州とオハイオ州の工場に10億ドルを投じ、2000人を追加雇用する計画を発表した」「フォードは先週、メキシコに10億ドル規模の工場を建設する代わりに、ミシガン州など米国を拡大すると言った。ありがとうフォードとフィアット・クライスラー!」と続けた。さらに15日には「自動車メーカーなどは、もし我々の国でビジネスをしたいなら、再び此処で製品をつくり始めなければならない」と書き込んでいる。

 国内生産の比率を高め、移民や外国人労働者の代わりに賃金の高いアメリカ人労働者を雇い入れることになれば、製品の生産コストは上昇することになる。当然、経営者はコストダウンをはかるために自動化を考えるだろう。これまで人手に頼るほうが効率的だったり、季節変動などを考えると投資効果が見込めなかった作業も自動化を再検討する必要性が出てくる。AIによって、自動化が可能になる領域も拡大しており、需要が高まればAI技術の進化も加速するだろう。

 移民や外国人労働者を追い出すことができても、AIに壁を築くことはできない。ホワイトハウスのレポートは「AIによる自動化によって脅かされている仕事は、低賃金、低熟練、低教育の労働者に集中しており、それは賃金を引き下げ、経済的格差を拡大し、そのグループの労働者の需要を減らす」と予測している。これまで移民や外国人労働者が従事してきた安い賃金の労働を、安い賃金のままでアメリカ人労働者が引き継ぐのか、あるいはAIに奪われてしまうのか。

 「労働生産性の上昇が労働者の賃金上昇につながらなければ、AIによってもたらされる大きな経済的利益は、ごく一部の人のものになってしまう可能性がある」というレポートの予言が現実になるのであれば、トランプに投票した多くの人々が感じている経済格差のストレスは解消されることはないだろう。

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