感覚タイプの違いで生まれるコミュニケーションギャップ
AさんとCさんとのコミュニケーションにも、感覚タイプの違いが大きく影響していました。
Aさんは身体感覚をよく使う人であるのに対して、Cさんは聴覚を好んで使うタイプの人だったのです。
Cさんは良かれと思って、仕事のやり方やポイントをAさんに教える際に、事細かに言葉で説明していました。自分が人から教えてもらう時には、それが一番分かりやすい方法だからです。Aさんも同じように、よく理解してくれるものだと思っていました。
Aさんとしても、Cさんが自分への親切心から教えてくれていることは十分に感じ取っていましたから、なんとか期待に応えようと一生懸命説明に耳を傾け、覚えようとしました。
しかしAさんにとっては、言葉であれこれ説明を受けるよりも、自分が実際にやってみながら徐々に説明を加えてもらう方が、はるかに分かりやすく、自信を持って覚えられる学び方だったのです。Cさんが言葉を尽くして説明すればするほど、Aさんの中ではどうもしっくりこない感じが膨らみ、頭と体がバラバラになっていく感覚になってしまいました。
その結果、得意先を訪問しても、説明の言葉は口から出るものの以前なら感じ取れていた相手の雰囲気が分からなくなってしまい、上滑りするようになったのです。
そのことにCさんは気づけたのです。
Cさんが「Aさんの持ち味を殺していたんじゃないか・・・」とハッと気づいたというのは、自分とAさんとはタイプが違うことを発見しただけでなく、Aさんのタイプを理解して指導すれば、Aさん本来の力を活かす形で伸ばしていけそうだという可能性に気づいた瞬間でした。
Cさんが気づいたことの本当の意味
感覚タイプについての知識を得たCさんは、研修時間の後半はAさんの様子をじっと観察して、Aさんの話すことに耳を傾けるようにしました。様々なワークに取り組んだり、チームでのディスカッションを行ったりする中で、Aさんがどんな時に理解を深めるのか、どのように伝えられれば身につけやすいのか、Aさんのことを理解しようとしたのです。
Cさんが、「やり方を教えるトレーナー」から、「才能を引き出すトレーナー」へと、成長し始めた時間でした。
中学受験指導においても、幼児期の子育て相談に乗らせていただく時にも、私は「教えること」と「引き出すこと」とのバランスをいつも心がけています。
【teaching】だけでは主体的に学ぶ力を育てられません。
しかし、【coaching】だけに偏っては、そもそも知らないこと、分からないことがいつまでも放置される恐れもあります。
どちらがより良い指導法かということではなく、どちらも必要なのです。