筆者は、平和主義こそ戦後今日に至る日本の繁栄と諸外国からの信頼を成り立たせた根幹だと考えるが、それに固執するあまり軍事・安全保障を語らず他国に任せ、あるいは不用意に他国の善意に頼る態度には反対である。現状へのリアルで厳しい認識、そして外国の自国に対する潜在的な敵意を断念させ、あるいは低減させる地道な努力こそ為政者に最も求められるものである。鳩山首相が日本の国際的な立ち位置とその歴史を十分勘案せず、思いつくままに「東アジア共同体」「沖縄の思い」と発言し、そこで盛り上がった「勢い」を梃子に問題をはねのけることが出来ると「思っていた」とすれば、日本の安全保障にとってかくも恐ろしいことはない。「ツイッター政治(つぶやき政治と呼ぶべきか)」の全面的敗北は起こるべくして起こった。
基地県として、あるいは安全保障問題の焦点としての沖縄(あるいは米軍基地の負担に苦しむ全ての地域)が欲しているのは、過剰な負担が少しでも改善され続けることによって、同じ日本国民としての尊厳を得られることに他ならないだろう。そうであってこそ、日米安保体制および日本の政権与党に対し、基地周辺住民から正統性が付与される。今回の空虚な堂々巡りに対しては、「沖縄の心をもてあそんだ」という批判がなされるが、問題の深刻さは単に「もてあそんだ」だけにとどまらず、このような正統性の力学を破壊し、ややもすると日本の国民統合そのものを危機に陥れかねない状況に陥れたことにある。
※次回の更新は、6月2日(水)を予定しております。
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜
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